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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 69-3

 2週間ののちにワイズマン公爵領・エグランタインに潜入している青薔薇小隊長ジャックとコンタクトを取った同じ階級のレティシア、ジョゼット両名からの報告書は、上官である中隊長ヴァルト、ナーダに渡り、そこから直接、間を飛ばして国立十二賢者の一角を担うニケの下へと届けられた。
 本来ならば、薔薇の騎士団内で順を踏んで提出され、中身を確認された後にようやく十二賢者に渡るはずだ。
この場合においても無論、十二人全員に公開されなければならない。
しかし、ニケは二人の中隊長に敢えて手順を省略させた。
 規律は守るためにあり、上に立つ立場の人間が公然と無視してしまっては、組織が成り立たなくなってしまう。
賢人ニケとあろう者が自らそれを破ることは忌避するところであったが、今回ばかりは内密に済ませたかった。
 ダンラックの息のかかった者が内部にいるかもしれないことを恐れたのだ。

▽つづきはこちら

 薔薇の騎士団は十二賢者の支配下にはない。
 薔薇の騎士団が国家の剣であるというのならば、十二賢者は国家の脳(ブレーン)である。
 十二賢者は薔薇の騎士団の中から選ばれることが多いため、まったく無関係ではないものの、基本的に二つは別の組織なのだ。
薔薇の騎士団が忠誠を誓うのはあくまで女王1人であり、十二賢者に膝をつくことはない。
生粋の軍人であるヴァルト、ナーダもまた“頭でっかちの”十二賢者の介入を嫌い、また己の上官に対する忠誠と義務を果たすべく部下からの報告書を規則どおり上へ提出するつもりであった。
しかし、ニケが自ら十二賢者であることを打ち明け、内部に敵がいるかもしれないこと、そして協力を申し出ると二人は渋った後に首を縦に振った。
あくまで表向きは謎の宗教団体に対する調査であり、ワイズマン公爵の名前が表ざたになっては困るのだ。
相手は女王さえも簡単には手出し出来ない勢力を持つ大公爵。
下手に動けば逆にこちらが危うい。
確たる証拠をつかみ、もみ消すこともできないくらいに固めて始めて行動が可能になる。
それまでは水面下で動くしかないのだった。
 とはいえ、ジャックが単身乗り込んでいることは薔薇の騎士団上層部には当然知れている。
ヴァルトの頼みで許可を出したのは当然、上層部の人間だからだ。
そこに報告が届けないわけにはいかない。
報告書は2通り作られ、本物はニケの下へ。
ダンラックに関する記述を抜いた内容で書かれた物を正規に提出することとなった。
 
ヴァルト「あまり好かないな。こんなやり方は」
 
養成所の会議室でヴァルトがぼやいた。
ナーダも無言で窓の外を睨んでいる。
二人は上官を欺く形になったのが不服なのだ。
 
ニケ「悪かったと思っているよ」
 
 言葉と裏腹にあまり悪気を感じていないニケが口先だけで協力者たちに謝罪した。
 
ナーダ「もう黒だったも一緒でしょ? 何故、逮捕に踏み切らないの?」
 
 窓ガラスに映るニケにきつい口調で問いを投げかけるナーダ。
 
ニケ「これじゃダメだね。特に公爵に関する記述には、ジャックの想像がふんだんに含まれている。例の宗教団体に関与している……“ようだ”じゃダメなんだよ、“ようだ”じゃ」
ナーダ「けど、ほとんどそれで間違いないからそう書いているんでしょ? ジャックはそんなバカな子じゃないわ。……いえ、バカはバカだけど」
 
 普段の言動は。と口ごもってから小さく付け加える。
 
ニケ「ジャックは父親を殺されている。そこから感情的になっていたとしてもおかしくないからね」
ナーダ「どういう……意味?」
 
 きっ、と眉を吊り上げる。
 
ヴァルト「まぁ、待てナーダ。確かにニケの言うことには一理ある。人間なら誰しもあるであろう感情だ。特に身内を殺されたと思い込んでいるなら尚更。恨みの対象に罪を着せて亡き者にしようと画策めいた気持ちになってもおかしくはない。報告には想像を入れるなとあれほど学生時代に注意したのだがな」
 
 ナーダが怒りを吐き出す前にヴァルトが後を引き取った。
 彼女がそれについても反論しかけるのを遮って、今度はニケが問いを投げかける。
 
ニケ「そこまでわかっているなら、どうして彼に任せたんだい? 不適切じゃない。教え子可愛さで折れてもらっちゃ困るよ」
ヴァルト「それは違うな、ニケ。奴は我々が思うよりもっと小賢しい。個人的な感情が原動力であれ、奴が掲げる建前の稚拙で幼稚な正義に背くような真似はしまい。奴は己の建前を崩すことなく、目的を遂げるために奔走するだろう。ただの命令で動くよりも強い意志で」
 
命を賭ける理由と価値を見出しているからこそ、成功のためにあらゆる思慮と努力を尽くして動くのだ、彼は。
 
ヴァルト「……それが奴の提案を俺が呑んだ理由だ。他には何もない。教え子可愛さというのなら、初めから許可は出さないさ。死ぬ確率が上がるのだからな。だいたい……別に可愛くない」
ニケ「なるほど、ね。確かに踊ってくれそうではあるよね、死力を尽くして」
ヴァルト「そうだろう」
ニケ「わかった。ジャックには期待しよう。でも、この報告書だけでは逮捕に踏み切れないけど」
ヴァルト「ああ。もう少し時間をやってくれ」
ニケ「ことは慎重に運ばないとならないからね」
 
 ニケは椅子から立ち上がって会議室のドアノブをつかんだ。
 背後からヴァルトの堅い声が追いかける。
 
ヴァルト「その報告書は間違いなく、女王の下へ届くのでしょうな。……ニケ殿」
ニケ「イヤだなァ。今までどおりでいいよ、ニケちゃんって」
 
 おどけて見せたが、同僚二人は笑わなかった。
 
ニケ「疑っているの?」
ヴァルト「仕方がないだろう。お前以外に誰も知らないんだ。そこで握りつぶすことも出来る」
ニケ「まさか。もしこっちが変な動きを見せたら、ただちに二人がこのことを報告するでしょ?」
ヴァルト「無論だ」
ニケ「ならいいじゃない」
 
 軽く言って、ニケは会議室を後にした。
 ドアをしばらく眺めていたナーダは納得しかねる様子でまだ太い腕を組んで座っているヴァルトを顧みた。
 
ナーダ「どう思う?」
ヴァルト「ニケのことは信じている。奴の忠誠は本物だろう。ただし……」
ナーダ「ただし?」
ヴァルト「いや。考えすぎだな。あのニケがそこまではすまい」
ナーダ「? なによ?」
ヴァルト「忘れてくれ。我々が疑心暗鬼に陥っても仕方のないことだ」
 
 言葉を飲み込んで、ヴァルトは首を横に振った。

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