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響く炎:16
2008.01.06 |Category …箱庭の君 短編2
…矢が。
矢が遅く見えた。
ゆるりと。
ゆるりと降りしきる雨のように。
ととととと…。
体の上に降ってきて…
お焔が何か叫んでいるのが見えた。
でも…
何を叫んでいるのか聞き取れない。
…そのような顔をするな…
何か心配ごとか…?
珍しいな。
お前が。
どうした?
言うてみ?
何でも。
ワシは力になれるか?
お前の…。
…あ…、あ…。
風景が…斜めに見える? これは…、どうしたことか…?
響く炎:15
2008.01.06 |Category …箱庭の君 短編2
屋敷の周囲はすでに武装した間宮の軍勢に取り囲まれ、逃げ場もない。
刀を手に外へ走り出る。
響「何故…っ!? 加賀美は謀反など………。応えよ、柳殿っ!!」
柳「主君の妻に手を出して、何を偉そうに…! 間宮の面子を汚した罪は重いわよ、加賀美殿」
響「…バカな…」
柳「それに調べはついておる。単筒を隠れて買い集めおって…」
響「隠れるなどと…それは和成様の命(めい)だったハズ…! ちゃんと証拠の文は届いておるわ」
柳「何の話かしら? 和成様はそのようなものは知らぬと申しておったわえ?」
響「…和成様に会わせろっ!! 直接、説明を聞きたいっ!」
柳「問答無用!」
響「……深之殿はっ!?」
『…まさか…』
柳「会いたくないって言っていたわよ? むごたらしく…殺して欲しいって。アタシにそう言ったの」
響「……………深之……」
今、ワシはハッキリと悟った。
響「…深之ぃぃ っ!!!」
響く炎:14
2008.01.05 |Category …箱庭の君 短編2
深之「その妻は人ではありませぬ…。響殿はだまされておる」
響「なぜ、そのようなことを申されるのです?」
深之「………いえ。その…」
響「……………」
知っているだろうともさ。深之殿はワシのお焔を殺めようとしたのだから…
けれど、何をしてもお焔は死にはしなかった。
そうでしょう、深之殿?
深之「…では…。その愛妻が他の男と逢瀬(おうせ)したなら?」
響「…その男を、斬って捨てましょう」
深之「もしも、それが和成様だとしても…?」
響「…和成様? それはナイと存じます」
これが…。
ワシと深之様の最期に交わした言葉となった。
何故なら…
響く炎:13
2008.01.05 |Category …箱庭の君 短編2
響「知っているか、京次」
風呂上がり。
息子をあぐらのひざに乗せて、縁側。
京次「しらねー」
響「聞いてから言えよ」
「あのな。魔性の者に出会って、まず一番してはいけないことを知ってるかー?」
京次「しらねー」
響「それは、話をしてしまうこと。目を合わせてしまうことだ」
「魔性に応えてはならぬ。本物の魔性は、あの手この手を尽くさずとも、的確に心の隙をつく。知らぬ間にだまされて、魂(タマ)までとられちまう。…わかったか、京次?」京次「うん。…ちょっと」
指で“ちょと”を示す。
響く炎:12
2008.01.04 |Category …箱庭の君 短編2
焔「これは己(おれ)宛だ。勝手に読むでないよ」
響「オイオイ、いいじゃねーか。何て書いてあったんだよ?」
焔「己にお前さんから手を引けと。お前では響殿に釣り合わぬから実家に帰れとな」
響「……………」
焔「金子も包まれておったぞ?」
響「何だって!?」
焔「やるな、この色男っ♪ あははははっ」
響「……笑い事かよ」
焔「返事を書こう。下賎の者は、帰る実家もございませんとな」
響「金も返しておけよ」
焔「わかっておる。己は金目に興味はない。光り物なら好きだけど」
響く炎:11
2008.01.04 |Category …箱庭の君 短編2
深之「…ねぇ、そのようなコトよりも響殿…? ここには妻も子もいない。幸い誰も見てはおりませんし…」
周囲を見回して、急に甘えた声を出す。
響「…! な…何を…」
寄り掛かられて、ワシはあわてた。
…そうだ。前々からわかっていたことだ。
深之殿はワシに恋心を抱いている。
何年も前から。出会っていくらもしない内から。無理もない状況であったから。
だがワシと深之殿では立場が違う。
初めから相入れない。主君と家臣の壁は厚い。
それより何より…
響く炎:10
2008.01.03 |Category …箱庭の君 短編2
自分も子を持つ身。
ワガママで手のかかる子だが、可愛い。
可愛がるから、またワガママを言い出す。
だが、それが童の姿だろう。
よく笑い、よく泣き、よくかんしゃくを起こす。
それが。
もっと年は上とは言っても、10に満たぬ童であるハズの十音裏様は…
響「十音裏様、またお一人でございますか?」
十音裏「…十音裏でございます、みゆ…」
響「響でござる。加賀美 響」
十音裏「………………」
響「…………………」
十音裏様は、暗い牢獄から逃げ出そうとしたのか、壁を狂ったようにひっかき、その血で自分に与えられた名を記していた。
もう、気狂いとしか思えなかった。