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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 66-26

 鎮は丈夫だ。
 確かに丈夫だ。
 1ヶ月経つともうあの事件はクロエとリクだけの夢だったかと錯覚させられそうになるくらいに自然に振舞って寂しさなどカケラも表に出しはしない。
 人はそれほどヤワじゃなくて、どんなになったとしても生きてはいける。
 この人の言うとおりだ。
 言うとおりに彼は実践している。
 呪われて蔑まれようと母を兄を殺そうと死を望まれようと彼は生きている。
 いつもと変らず軽口を叩いて教壇に立っている。
 しかし。
 生きていけはすれど。
それだけではあまりに悲しいじゃないか。
独りでただ耐え忍んでゆくだけだなんて。
 
リク『この人は俺と同じなんだ……。誰といても独り孤独で……他人に頼ることもできなくて……誰にも愛してもらえない……』
 
 リクは自分の境遇に重ね合わせて胸が詰まった。
 

▽つづきはこちら

リク「シズカ」
鎮「……? ハイ?」
 
 突然ファーストネームで呼ばれてきょとんとする。
 
リク「シズカ……二人のときだけは、シズカって呼んでもいい?」
 
 
 リクが雨に濡れて鎮の部屋に転がり込んでいたころ、アンはジェーンと些細なことからケンカをしてしまい、普段の彼女からは想像もつかないような大胆な行動をとってしまっていた。
 慰めてくれるのはリクだけだ。
 この悲しみを癒してくれるのはリクだけだ。
 恋人の温かい抱擁さえあれば……
 いや、彼はきっと抱きしめてくれなんてしない。手さえ握るのを拒むのだから。
 だけど、少なくともジェーンの友人に投げつけられた酷い言葉の針を引き抜いて癒してくれるだけの言葉をくれるはずだ。
 気にしなくていいよ。アンは優しい子なんだからと自分の全てを肯定してくれるのだ。
 そうだ。アンは控えめで忍耐力があっていつも他人のことを優先する気持ちの優しい女の子だ。それが長所なのだ。
 それなのに困ったときだけ頼るだとか言われたくない。
 
アン『リク君ばっかりで他はどうでもいい何で思ったことないもん……! ちゃんと友達だって大事にしてる! それなのにどうしてジェーンが可哀想なの!? 私ばっかりがいつだって悪者じゃない!』
 
 どうしてこう、自分の良いところは地味で目立たないのだろう。
 どうしていつまでも縁の下の力持ち的な立場でいなければならないのか。
 
アン『だったらもう友達なんていらない! リク君……! 私にはリク君だけいてくれたらいい!』
 
 どんなに周りがやっかんでも羨望の眼差しを向けても決して誰にも手に入らない恋人がいるのだ。
 物語の世界から抜け出てきたような王子様が。
 優しくて美しくて聡明で比の打ち所のない完璧な王子様が傷ついた彼女の心を慰めてくれる唯一の希望の光。
 手を握ってくれなくてもいい。キスをしてくれなくてもいいから、優しい言葉をかけて微笑んで欲しい。
 彼の姿を求めてアンは食堂に走った。
食欲魔人の彼ならば、食堂にいるに違いないと思ったのだ。
 
アン『リク君……リク君どこ?』
 
 人の波でごった返している広い食堂の一人一人を確認していく作業は大変だったが、宿舎の中では男女が共同でいられる空間はここしかない。
 ここで見つけるより他はないのだ。
だがいくら探し回っても姿がないとわかると正面玄関に戻り、雨の中、図書館の方向へ迷わず走り出した。
土を跳ね上げて、スカートが汚れるのもお構いなしに。
もう別れてからずいぶんと時間が経ってしまっている。いるはずがないとわかってはいたが、ひょっとして、アンにした仕打ちを悔やんで雨に濡れて反省しているかもしれないという想像が頭をかすめたのだ。
「ごめんよ、俺が悪かったよ」そんな言葉を期待して、別れた場所に足を運んでみたが、無駄だった。
 
アン「それはそうよね……」
 
 わかっている。
 現実と物語の中とは違うことくらい。
 
アン「……こんなずぶ濡れになって……バカみたい」
 
 きびすを返してトボトボと歩く。
 もう、走る気力なんてなかった。
 一人ぼっちのヒロインを演じてゆっくり戻ってきたアンを出迎えたのは、レクとフェイトだった。
 ちょうど食事を終え、風呂から出てきたところである。
 正面玄関の前の階段を上がって部屋に向かおうとしているところだった。
 
レク「あれ、アンじゃないか。どうしたの、そんなに濡れて」
 
 首にかけていた自分のタオルをあわてて差し出す。
 
レク「風邪引いちゃうよ。俺のタオル使っていいからさ、ホラ。顔を拭いて」
アン「……ありがとう」
 
 男の人から優しくされた経験がほとんどないアンは、一瞬だけ胸が高鳴った。
 
フェイト「そういえば、さっきレイオットとクロエが君のこと探していたぞ」
 
 これも使うといいと勝手にレクにタオルをはぎとられたフェイトが自分のタオルの行方を見つめながら口を開く。
 
アン「レイ様たちが?」
レク「そうだ。さっきそこで会ったんだよ。かなり心配していたけど……」
 
 それでピンときた。
 ジェーンだ。
 ジェーンが頼んだのだ。
 
アン『やだ……話を大きくして!』
 
 まさかアンを悪者のように仕立て上げて話していないだろうか。
 それだけが心配だった。
 ジェーンは悪ノリするとすぐに話を大きくするクセがあるから。
 
アン「……へ、平気です。何もありません」
レク「そ、そう?」
フェイト「………………」
アン「それよりっ、それよりリク君を見ませんでしたか? 二人とも、同室だったわよね?」
レク「いや、俺は見てないな」
 
 催促してフェイトの方を向く。
 
フェイト「俺も見てない。今日は朝に顔を合わせたっきりだ」
レク「俺も」
アン「そうですか……」
 
 あんまりがっかりした顔をするので気の毒になったレクが部屋に戻っているかもしれないから見てこようと提案した。
 
アン「ありがとう、レク君!」
レク「うん、じゃあ君は一度部屋に戻って着替えてきなよ。そんなんじゃ風邪引いちゃうしさ」

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