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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 66-30

リク「そんな……違うよ、俺は……!」
 
 だけど、違う。
 それだけじゃない。
 それでけであるはずがないではないか。
 鎮は鎮だ。それは承知している。
 まったくの他人を父親・秋臣にすっかり挿げ替えてしまうことなどできっこない。
 リクの父親は永遠にただ一人なのだから。
 父親的な位置に置いて代わりとなる存在ではあったけれど、鎮では到底、秋臣になりえないということだ。
 
リク「ちゃんと鎮を見てるよ!」
鎮「……ウソツキ」
リク「鎮っ! 違うよ、聞いて!」
鎮「嘘つきはイヤだ。慰めに使われるのも、もう沢山。味方してくれるだの、守るだのってカッコイイことばっかり。できもしない……するつもりもないクセに」
 
 バケツを胸に抱いて一歩下がる。

▽つづきはこちら

 
リク「大丈夫だよ。俺は味方だ。心配ないから逃げないで! 約束する」
 
 リクの必死の声にも鎮は首を左右に振って聞き入れようとしなかった。
 
鎮「簡単に約束だなんて言うな……千本の針を飲むことになる」
リク「飲まないよ。俺は約束をたがえないから」
鎮「……みんな、そう言って針を飲んだ」
リク「……“皆”? 皆って……」
 
 問いには答えず、もう一歩下がる。
 
鎮「……約束は却下してやる。お前は……アンの話をしに来たのだろう? 俺の話はもうよい。どうしてすぐつなげるんだ。もういいって言ってるのにっ!」
リク「鎮!」
鎮「これでわかったろう。俺は平気なんだ、人の手なんか借りなくたって。だって強いからっ。今までもそうしてきたし、これからもそう! ずっとそう! お前とクロエが混ぜっ返さなければ、俺は大丈夫なんだっ! 痛手なんか残ってないっ! お前たちが悲観的にとらえているだけだ。いいか、俺も何度でも言うぞ。俺はそんなにヤワじゃない。助けなんて必要としていない。俺は強い。お前なんかよりずっと、ずっとだ! 守られようだなんて考えるものか。守ることはあってもだ。俺は他人に身を任せたりせぬ! 子供なんかじゃない、大人だからなっ」
リク「ちょっ……駄々こねないでよ、大人だからなって…………子供みたいだよ」
 
 気圧されて眉を下げる。
 
鎮「うるさい、お前が手を取るべき相手は俺じゃないだろうが。お前を今一番、必要としているのはアンだ。違うか? 行ってやればどれだけ喜ぶか。手を取るつもりがないなら初めから手を差し出すんじゃないわ」
 
 腹を減らした哀れな捨て犬は手を差し伸べただけで連れて行ってもらえると悲しい早合点をすることを鎮は知っている。
 まさに自分がそうなのだ。
 少し優しくされるだけですぐにカンチガイをして、後から恥ずかしい思いに打ちのめされる。
 だから優しくしてくる人間は全般的に苦手である。
 言葉とは裏腹に、すぐに身を寄せたくなるから。
 可愛いからと犬をその場で構って、バイバイされる。拾ってきた犬を親に反対されてまた捨て場に置いてこられる。
……そんな扱われ方はまっぴらごめんだった。
 
鎮「……わかったな?」
リク「待ってよ、そんな一方的に……」
鎮「今日はこの部屋に泊まっていっても構わぬが、俺は他に行く」
 
 回転式の扉に手をかける。
 
リク「え、一緒じゃないの?」
鎮「だってお前ウルサイもの。もう話は済んだというのにいつまでも蒸し返す」
リク「どこにいくの!?」
鎮「ミハイル殿のところにでも泊めてもわうわ。そうでなければ医務室でもどこでもよい」
リク「シズ……待って、聞いて。ちゃんと俺の話を……」
 
 思わずリクも立ち上がって、はらりと毛布が落ちた。
 
鎮「……………………」
リク「…………あ」
 
 落ちた毛布を押さえるのと足を踏み出す行動が同時に脳から命令されてしまった。
 2、3歩前のめりにつんのめって……
 
リク「あっ、わっ、わっ!?」
鎮「……っ!??」
 
 鎮の上に影がかかった。
 扉に背中を押し付けて逃れようとした瞬間。
 ぐるんっ。
 ……当然だが、回ってしまった。
 目まぐるしく景色が視界を流れてゆき、終着点でごつんとものすごい音が頭蓋骨に響いた。
 
鎮「ごがっ!?」
 
 目の前に色とりどりの星が散る。
 しこたま後頭部を打ち付けてバウンド。
 ブリキのバケツも手から弾き飛ばされて、硬い音を鳴らして廊下を跳ねる。
 衝撃で額当てが飛び、上に倒れこんでいたリクと間近で目が合ってしまった。
 
リク「………………………………エ………………」
鎮「……………………」
 
 出会って3年目にして、真紅の瞳と金色(こんじき)の瞳が交差した初めての一瞬である。
 これも初対面というのだろうか。
 予想していなかった時に、想像していたのと全く別の顔が現れて、リクは固まってしまった。
 思考も何もかもが凍結して、鼻先が触れ合うほど近くにある人物の姿をただ両眼に焼き付ける。
 
リク「……お……」
 
 少年? 少女?
 動き出した脳裏にまず浮いた疑問はこれだった。
 形のよい細い眉。
 くっきりとしたラインの二重。
長い睫に縁取られた、やや釣り気味の大きな目は予想外の出来事に驚きを隠せずに瞬きを繰り返している。
双子の兄と同じように切れ長の目を想像していたが、まるで違っていた。
酷く幼い。
18歳のリクよりも年下なのではないかと疑わしいほどに。
少年というよりは少女で、少女というよりは少年。
永遠に成熟することのない中性のままの妖精……。
 ほんの短い間に鮮烈な印象が簡単な言葉を借り、形をとっては遠くへ流れて消えていった。
 素直にキレイだと思った。
神の芸術とも例えられる美少年リクをして、美しいと思わせるこの素顔のどこが醜いというのだろう。
 何故、これを醜いと思うのかがわからない。
 呼吸さえなければ、精巧に出来た蝋人形である。

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