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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 第66話

第66話:恋ハ乱
 豪雨に見舞われた、エグランタイン城。
 初老の男は机の上に置いた水晶球に魔力を送るのをやめて、蓄えた脂肪を波立たせ億劫そうに立ち上がった。
 異国のソルジャーを5人雇ってみたが、王女と日の王子を手に入れることに失敗したのである。
 少なくとも自分の手の者よりは使えそうだと思っていたのに非常に残念だ。
 
ダンラック「まぁたシズカたんですか。まったく邪魔ばっかりして悪い子ちゃんでしゅねぇ」
 
 姫と王子をさらおうと画策すれば、常にあのシズカ=ヒサメという教官が邪魔をする。
 異国の5人はそのシズカを始末するためにわざわざ遠い海の果てから来たというのに、返り討ちにされてしまった。
 かくなる上は自ら出向かねばなるまいか。
 是が非でも姫と日の王子の力を我が肉体の一部として飲み込みたいのである。
 公爵は苛立ちの目を部屋の隅に固まって震えている裸体の美女たちに向けた。
 

▽つづきはこちら

ダンラック「私は許しませんよぉ」
 
 ビリリと下半身の服が破れて、そこからいく筋もの触手が現れた。
 女たちが悲鳴を上げていっそう震え上がる。
 それらはみるみる膨らんで増えてゆき、やがてタコの足のようにうねって首輪でつながれた美女を一人からめとる。
 雷が鳴った。
 バケモノの姿が青白く一瞬だけ浮き上がり、影を大きく壁に焼き付ける。
 恐怖のあまりに目を極限まで見開いている女の白い肌の上をねばつく液を滴らせた触手がゆっくりと這いずってゆく。
 まるで枝を伝いゆく蛇のように。
 
女「お……お助けを……」
 
 両足を左右に引っ張られ、あられもない姿で逆さ宙吊りにされた女は涙を浮かべて震える声で乞う。
 
ダンラック「邪魔する子にはお仕置きが必要でしゅ」
 
 たるんだ腹が、体全体が不自然な動きでみるみる大きく膨れ上がり、上半身の服が裂ける。
 むき出しになった腹部に横一線の亀裂が走ったかと思うとかばぁっと上下に開いた。
 
女たち「ヒッ!?」
   「ヒイィィィ!??」
 
 腹に巨大な口が出現したのである。
 
ダンラック「フォーッフォッフォッフォ」
 
 恐怖に引きつった女たちが見ている前で、ぽっかりと開いた真っ赤な穴に逆さにされた女が放り込まれた。
 
 ぼりっ。
 
 骨の砕ける音と肉が断ち切られる音が同時に起こり、無残、美女は首上半身のない遺体となった。
放り投げられた身体は痙攣を起こして床に転がる。
 
ダンラック「おっほー! 喜んでいましゅよ、私の美しい体が。おいちぃおいちぃって言ってますよっほーっ!」
 
 暗い城内に今日もまた狂った悲鳴が轟いた。
 外から窓を叩く激しい雨。
 内側から真っ赤な血のしぶきが雨を真似るように叩きつけられる。
 いくつもの絶叫が窓を震わせた。
 冷たく濡れたエグランタインの城は今日も沈黙す。
 息を潜めてじっと。中で起こる惨劇を覆い隠し。
 人でなくなった公爵の機嫌を損ねないように。
 助けが来るその日をずっと待ち続けている。
 
 
 クロエ、リクがさらわれる事件が起こって1カ月目の薔薇の騎士団養成所。
 夏の終わりを惜しんでいた蝉の声も完全に消えて、敷地内の葉が徐々に色を落とし始めたころのことだ。
 
ジェーン「クレス君、この冬はシレネ鎮魂際ね」
 
 訓練の最中に馬を寄せてジェーンがイタズラな笑みを浮かべた。
 
クレス「え、あ、うん。そうね」
 
 嫌いではなく、むしろ好意的ではあるが少しジェーンに対して苦手意識のあるクレスは目をついと明後日の方角に向けて素っ気無く答えた。
 
ジェーン「あのね、あのね。お祭りの日さぁ、もしまだ先約なかったら私とおデートしない?」
 
 顔を下から覗き込むようにして、甘えた猫なで声を出す。
 
クレス「なっ…!」
 
 たちまちクレスの頬が茹で上がった。
 そうだ。
 これなのだ。
 クレスが彼女を苦手とする理由は。
 からかいなのか本気なのかわからない。なのに直球ストレートなところだ。
 まだ恋という恋を体験したことのないクレスには荷が重かったのである。
 
クレス「な、なっ、何言ってんだよ、まっ、まだ2ヶ月も先じゃん!」
ジェーン「だーからー。2ヶ月先のクレス君の身柄、予約したいって言ってるんじゃない」
クレス「み、身柄……」
ジェーン「ね、ねっ、いいでしょ? 私のこと、キライじゃないわよね?」
クレス「キッ、キライじゃないっ……けど」
ジェーン「やった♪ じゃ、決まりっ☆」
 
 ターンをすると決められたラインで馬の手綱を引くとジェーンはご機嫌で離れていった。
 クレスはというとそのままボンヤリとはるか前方まで歩いていってしまい、教官に呼び止められる失態を演じてしまう。
 みんなの笑い声でまた頬を赤らめた。
 彼は確かにジェーンが嫌いではなかった。
 3年馴染んだこのクラスも今では和気あいあいとしているものだが、1年目のクレスは周りが全て敵だと言わんばかりに片意地を張っていた。
 故郷で親なし子として散々からかわれたためだ。
 魔法使いだった優しい祖母だけが彼の味方で、その祖母を亡くしてからというもの、すっかり殻に閉じこもってしまっていたのである。
 初めに誰も逆らえないように力を誇示してやろうと加減を知らない魔法で人の命を奪いかけたのが悪かった。
 同級生はみな、クレスを恐れて遠巻きにしたのである。
 当時は狙い通りと思っていたクレスだったが、一人ぼっちで寂しくないわけがなかった。
 けれど見透かされまいと弱みを見せまいと賢明に片意地を張り続けた。
 そんな彼を大して恐れもせずに人懐っこく寄ってきた女の子が2つ年上のジェーンだ。
 明らかに自分に興味を抱いていることはすぐにわかった。
 それが恋だとかは思わなかったが。

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