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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 64-9

冴牙「どうした? こっちの言葉で言えよ。オメーを先生と慕うガキ共にその惨めな台詞がよぉーく聞こえるようにな!」
 
 冴牙はますます調子に乗り始め、氷鎖女一族は黙ってそれを見ている。
 
鎮「お願いします。その者たちは、氷鎖女ではござりませぬ。どうぞ、命ばかりはご容赦の程を」
冴牙「は……ははははは! そうだそうそう。お前にゃ、そのマヌケな姿が似合ってんだよ!!」
 
 下げる相手の頭に足を乗せて、高らかに笑う。
 
偲「…………」
初「………偲………」
 
 初が偲に視線を走らせるが、答えはない。

▽つづきはこちら

 とうとうクロエは瞳に大きな涙を浮かべて顔をそらした。
 なんということだろう。
 自分たちが捕まりさえしなければ。
 そもそも偲を信用しなければ。
 いや、人を信用する心さえ忘れたら、何を頼りにしたらいいのだろう。
 そこまで考えてふとリクの横顔が目に入った。
 黒薔薇専攻で直接指導を受けているリクはクロエよりもずっとヒサメ先生と親しい。
 その彼が辛くないわけがない。
 そう思ったのに。
 リクは曖昧な表情を浮かべていた。
 苦しそうな、困ったような、それでいて少し嬉しそうな。表現し難い顔をしていたのである。
 
リク「先生……」
クロエ『リク……?』
 
 帰る場所が、迎えてくれる家族がいるクロエには、理解が及ばない心情の中に彼はいた。
 敬愛する教師が自分のために命を張ってくれている。
 自分たちのために屈辱を甘んじて受けている。
 自分の甘さと弱さのせいであんな目に遭わせて、悔しくて苦しくて申し訳なくて胸が詰まる。
 けれどその中に、守られているという実感があった。
 相手が誰であれ、あの人はそうしたのかもしれない。
 でも今それが自分に向けられていることが、どうしようもなく嬉しかった。
 家族を失ったリクにとって、頼れる存在は氷鎖女 鎮だけだったから。
 しかしそんな喜びも束の間だけだ。
 その敬愛する人が今、殺されようとしているのだから。それも目の前で。
 守られているばかりではいられない。
 もう二度と大切な人を亡くしたくはない。
 この状況を引っ繰り返す方法を考えなければ!
 
冴牙「よぅ、お嬢さん方、知ってるか? アンタらが先生、先生って慕ってるコイツはよォ、小便垂れの泣き虫だったんだぜぇ? ちょっとゴツくとごめんなさい、ごめんなさいって震えている負け犬さ。そう、今みたいにな」
 
 再び蹴りつけ、鎮は小さく悲鳴を上げて転がった。
 
冴牙「悟六のダンナ! いいだろ、おシズの願い、聞き届けてやっても。どうせ死に行く身だ。一生に1つくらいいいじゃねぇか」
悟六「……珍しいな。冴牙」
炎座「はっはー! どうせロクなことを考えてはおるまいが」
冴牙「へっへっ。ご名答」
 
 ニヤリと口元を歪ませる。
 
悟六「好きにせい。どうせこの2人はついでだ。我らはおシズの首さえ持ち帰れば良いのだからな」
冴牙「……と、いうワケだ。喜べ、おシズ。冴牙兄さんの厚意、感謝しろ?」
鎮「………………」
 
 切れた唇の血をぬぐって、生徒二人の方を見る。
 
冴牙「だが、お前が死ぬまでは解放しなぁい!」
 
 手を踏みつけて踵を回す。
 
鎮「ぐあっ!?」
冴牙「先に逃がすとお前が反撃に出るやもしれぬからな」
鎮「うぐぁっ!!」
 
 苦悶に顔を歪める。
 
冴牙「なぶり殺してやる!」
 
 唇を舐めて冴牙は残忍性を剥き出した。
 クロエとリクが身を固くする。
 
偲「………………」
悟六「冴牙。そう苦しめるな。ひとおもいに殺してやれ。偲が何を言い出すかわからぬぞ」
冴牙「冗談だろ、ダンナァ。コイツが生きていたお陰で里がどれほどの被害にあったのか忘れたわけじゃあんめぇ」
 
 冴牙の言い様に炎座が即座に賛成の意を示す。
 
炎座「ほうじゃ! 川の氾濫も氷鎖女祭りを行わんから起こったことよ! 疫病も飢饉も皆、コヤツが我が身を惜しんだからじゃ!」
 
 鎮の首を締め上げて軽々と片腕で持ち上げた。
 いくら小柄とはいえ、大人の人間一人、片腕で持ち上げるとはなんという豪腕だ。
 
炎座「お前のようなクズが生きておったところで何の役にも立たぬ。誰もお前の命なぞ望まぬ! ならば一族のためにとは思わぬのか。自分だけ生き延びられればよいというか、卑しい奴。一族の女子供のために命を差し出してみよ」
 
 なんて勝手な言い分だろうとクロエとリクは驚いた。
 災害や天変地異などが個人のせいであるわけがないのに。
 氷鎖女の里とやらではこれがまかり通ってしまうというのか。
 冴牙がローゼリッタの言葉で話すから、炎座もそれに習い、今やクロエにも理解できる展開となっている。
 途切れ途切れの話をつなぎ合わせると、先生は故郷では死ななくてはならない運命にあったようだ。
 しかしそれは何故?
 何故こうも故郷の人たちに恨まれているのだろう。
 悪いことをして逃げたのか。
 例えば村を何者かに売って逃げた?
 氷鎖女祭りとは?
 理由がどうであれ、このまま殺させるわけにはいかない。縄が緩んではくれないかと身を揺するが、残念ながらもがけばもがくほど、きつく絞めあがるように結ばれているようだ。
 目の前で何が起ころうとも手出しさえできないなんて。
 二人にとっても耐え難い拷問である。

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