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レイディ・メイディ 64-10
2008.09.08 |Category …レイメイ 64話
蹴りつけられて殴られて、首を絞められた挙句に地面に叩きつけられた鎮の額当てが外れて飛んだ。
人質の下へ滑り転がってくる。
野営のための頼りない火では、その素顔は見えなかったがそれでいいと二人は思った。
さらしたくはないという顔を、醜いという素顔を見てはいけないのだ。
鎮「ぐはっ……かはっ」
炎座の手から逃れてのどを押えて苦しげに咳き込む鎮。
それをまた踏みつけて、冴牙は刺すような眼差しを落とした。
冴牙「いいことを教えてやるよ。おシズ。お前の大好きだった母様はなァ」
偲「………………」
冴牙「お前が生きてると知って、首をくくったよ」
鎮「!」
▽つづきはこちら
リク・クロエ「!!」
冴牙「一族に申し訳ないとゆぅてな」
鎮「……かかさま……」
目の前に母親の面影か浮かんだ。
母が、死んだ。
真っ黒に茂る森の中で、母親が首に縄をつけてぶら下がり、揺れる幻が見えた。
鎮「かかさま……」
冴牙「オメーが殺したんだ」
鎮『シズが生きていたから、かかさまが苦しんだ……』
後頭部を殴られたような衝撃が走った。
生まれてきてこのかた、家族を苦しめるだけの存在だった。
生まなければよかっただのと記憶の中の母親はいつも泣いていた。
……泣かせていた。自分が。
生まれてきたことをいつも申し訳なく思っていた。
思い余って身を投げたけど、助かってその後は死のうとしなかった。
死のうと何度も思ったけど、怖くてできなかったのだ。
炎座の言うとおり、自ら可愛さで「死にたくない。」それしか考えられなかった。
例え良いことがなくても、生きていたかった。
生きる希望があったのではなく、ただただ死ぬのが嫌だっただけだ。
それは醜い執着だった。
そうしながら、父や母の幸せを遠い海の果てから願っていた。
それがなんとおこがましかったことか。
いなくなった後も自分のことで家族が苦しみぬいていたなんて。
金色の、夜に強い眼で兄を仰ぎ見た。
兄は無表情でこちらに視線を投げかけているだけだ。
唇は固く結ばれていて、言葉が漏れる気配すらない。
瞬きも異常に少なく、そこに感情は読み取れない。
兄も、さぞや恨んでいるのだろうなと今更ながらに鎮は思った。
目覚めたとき、兄がいなくてうろたえた。
寝坊したことにも本当は少しうろたえた。
でも信じようと思った。
信じたかった。
そんなにまで憎まれていると思わなかったし、思いたくもなかった。
壁に折り紙のやっこさんが突き刺さっており、それが眠り薬の粉を入れていた紙だったとわかったとき、とても、息苦しかった。
珍しく寝坊をしたのは、少量の薬を夜ごと飲まされていたため。
頭がぼうっとなって判断力も鈍っていたのだと今になればわかる。
血の契りも魔力を封じるため。
リクとクロエがさらわれたのも、自分の動きを封じるため。
養成所でいくらでも殺す好機はあったのにも関わらずやらなかったのは、薔薇の騎士の卵とそれを教える教官がいる中で行動を起こせなかったのだろうが、こうなればそれだけでなく復讐の意味合いもあったのかもしれないと勘ぐってしまう。
一族より自分を選んでくれるなんてこと、あるわけなかったのに。
少し考えてみればわかることだったのに。
嬉しくて嬉しくて、思考を止めてしまっていた。
きっとどこかでわかっていたのにわからないふりをして目も耳も閉ざしてしまっていたのだ。
それが今の状況を招いた全て。
一族の私怨に巻き込んでしまってリクとクロエには申し訳ないことをした。
鎮はもちろん、このままおとなしく嬲り殺しにされるつもりはなかった。
自分が殺されても二人が無事である保障はないからだ。
せめて無関係なのに囚われた学徒たちだけは無事に帰さねばならない。
責任において。
悟六「そろそろもう充分に責めたろう。殺してやれ」
冴牙「ナーニ言ってるんだ、宴はこれからだぜぇ。爪を剥いで、指を一本一本千切りとり、目玉をくり貫いて手足を切り落とす。内臓かき回してそこらを這わせてやるんだ、イモムシみてーになァ。ウキャキャキャキャキャ!」
甲高い声でクセ毛の男が笑うとクロエとリクは生理的な悪寒を感じずにはいられなかった。
下劣だ。
それが彼に対する感想。
炎座「そいつぁ愉快だな、冴牙よ。それから剃髪してあの醜い顔をさらしてやろうではないか。そこな二人の前にな」
冴牙「そりゃいいや。キキキ!」
炎座と冴牙の残忍性に困ったものだと悟六は首を振ったが、それ以上は口出ししなかった。
彼とて、鎮がどうなろうと知ったことではないのだ。
むしろ身内の不満をぶつけさせるにちょうどいいとさえ思っている。
血を好むあの二人を静めさせるには、生贄が必要なのだ。
すでに初は沈んだ面持ちになって偲の内心を気遣ったそぶりを見せている。
元々、忍には向いていない性格の彼女には、やや荷が重かったかもしれない。
双子の兄である偲といえば、相変わらず石像のように突っ立ったままだ。
彼の心の内はやはり身内からでも読めなかった。
冴牙は縄を鎮の首にかけて、犬の鳴き真似をするように要求している。
冴牙「キヒャヒャ。ガキの頃、遊んでやったの覚えてるかぁ? こうやって首に縄つけて引き回したっけなぁ。そうそう。それから、着物に火をかけたんだっけか? のた打ち回ってぴょんぴょん踊ってるみたいだったぞ、オマエ。キキキキッ!」
髪の毛をつかんで引き回す。
鎮「……うっ、あっ!」
クロエ「服に火を点けるって……首に縄って……」
リク「…………」
どんな子供時代だったのだろう。
壮絶な内容にクロエは身の毛がよだつ思いがした。
それにしても。
仮にも血を分けた弟がこんな目に遭っているのに顔色一つ変えずに見つめているなんて、どういう神経をしているのだろう。
抜き身の刀を手にしたいる偲を泣き濡れた目で見上げる。
けれど反応は何も返ってこなかった。
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