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レイディ・メイディ 64-8
2008.09.07 |Category …レイメイ 64話
初「そう思ってくれるのなら、私を放しや!」
鎮「初から願ってくれぬか。あの二人を解放せよと。シズも優しいお初を傷つけるのは心苦しい」
初「…………この私を、敵と見るか。友垣であったろうに」
鎮「だから忍びない」
初「…わっ……私を好いておったろう?」
鎮「……好いておったよ、懐かしや」
強がって睨み付けると鎮は薄く笑った。
もう心は遺していないという笑みだ。
初「くぅっ」
▽つづきはこちら
冴牙「へっ……なら、こっちも同じようにしてやるまでだ」
気を取り直した冴牙が人質に向かい、刃を構える。
ここまでは予想範囲内。
けれど本当にはやらないとわかっている。
初を手放すには、まだ彼らの有利は変わっていないからだ。
仲間を切り捨てるには早い。
人質を解放して初を受取ってからでも充分にこちらを始末できる。
そう、彼らは判断するはず。
だが。
鎮の計算に入らない者がいた。
兄・偲だ。
取引の最中だというのに、すでに逆側から刃を振り下ろしにかかっていた。
鎮「ッ!」
初「しの……っ!!」
表情一つ変えず、リクに向かって刃を下ろす。
冴牙「うおっ!!」
済んでのところで冴牙がそれを受け止めた。
リクの黒髪がはらりと散る。危機一髪だ。
冴牙「初を殺す気か! 奴は本気だぞ!!」
偲「………………俺も、本気だ」
初「……偲……」
鎮「…………う……」
腕をつかむ鎮の力が緩んだ。
重圧の駆け引きに、敗北を悟ったのだ。
兄の瞳にひとひらの情さえ見出せなかった。
鎮「くそっ」
初の背中を押す。
一気に氷鎖女一族側の緊張が解けた。
初「偲っ!」
偲に走り寄った初が抱きつき、冴牙は疲れたようなため息をもらす。
冴牙「ありえねーよ、お前」
偲「…………そうか」
悟六「初、容易に近づくな」
初の抜けた腕の関節を戻してやり、軽率な行動をたしなめる。
初「も、申し訳ございませんでした……」
がくりと膝をついた鎮に悟六が歩み寄る。
悟六「すまねぇな、おシズ。幸薄いお前だから、見逃してやりてぇのはやまやまなんだがよ。俺も氷鎖女一族だからな、許してくれ」
鎮「…………」
偲「…………」
リク『幸薄い……?』
悟六「どうせ呪われた身のお前は生きていてもいいことはない。そだろ?」
鎮「…………」
偲「…………」
リク『ノロ……何?』
父が倭国の人間でその言葉はよく知っているつもりのリクであったが、普段生活で使われる以外の言葉は当然、知らない。
これまでの氷鎖女同士の会話も全て理解していたわけではない。
話の流れから想像とつなげて聞いているのである。
ノロワレタとは何だ?
どこかで聞いたような気がする。
記憶の引き出しを片っ端からひっくり返してその意味を探った。
大事なキーワードのはずだ。
悟六「人の世から隠れて逃げてよ、虫けらみてーに這いずり回って生きるよか、おとなしく死んだ方が幸せってもんだ」
鎮「首を……」
悟六「あん?」
鎮「差し上げたら、二人は放してもらえましょうな。お約束して下さらぬ限り、シズは首を差し出すことはできかねます」
リク「! 先生……」
この間に言葉がわからないクロエはそっと偲に聞こえる声で囁きかけた。
クロエ「……お兄さん……」
偲「…………」
クロエ「お兄さんは本当に……本当に、先生のこと……何も……思ってはくれないのですか?」
だがその問いに答えは戻ってこない。
クロエ『お兄ちゃんなら……私のガーネットお兄ちゃんなら……絶対に、絶対にこんな酷いことはしないわ』
信じる兄が、この世で最も身近で信頼する家族が迎えに来たと優しい言葉で引き付けて、会いたかったその気持ちを利用するなんてこと、兄を思い慕うクロエには想像もできない苦痛だ。
クロエ「そもそもどうして先生は狙われているの? 化け物ってどういうことなの?」
やはり彼は答えない。代わりに視線がこちらに向いた。
クロエ「先生は、ホントにホントにお兄さんが大好きだったのに!」
偲「……………………知ってる」
手応えがない。必死の訴えはどうやら通じていないようだった。
何も出来ない自分が悔しい。
冴牙「何が約束だよ、バッカヤローが! 自分の立場わかってんのか!?」
冴牙は大声で言うと大股に近寄って鎮の顔を蹴り上げた。
鎮「ぐっ!」
クロエ「キャア!」
リク「先生!!」
冴牙「土下座して許して下さいっつーのが筋だろうが。ああ? なぁ、お嬢さん方?」
人質にわかるよう、ローゼリッタ周辺に通じる共通語で言った。
偲「…………」
蹴られて呻いていた鎮がゆっくりと起き上がると地面に両手をついた。
クロエ「謝っちゃダメよ! こんな人たちなんかに!!」
リク「…………」
偲「…………」
冴牙「おい、どーしたよ。ガキ共の命が惜しくねーのか? あ?」
鎮「お……」
「お願いします」
両手をついて頭を下げる。
鎮「その者たちは、氷鎖女ではござりませぬ。どうぞ、命ばかりはご容赦の程を」
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