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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 61-4

 一方、リクは校舎を出たところでアンに追いつく。
 
アン「……!!」
リク「えっと……何て言うか……その……」
アン「ごっ! ごめんなさいっ!! モーリーが勝手なこと!! モーリーったら、悪ふざけが好きですぐああやって……だからっ!! 本気にしないでっ!! 違うの、違うの!!」
 
 ハッキリと断わられたくない一心で相手の言葉にかぶせ、結果をうやむやにしようとする。
 この恋が叶うわけがない。
 結果はわかりきっているのだ。
 どこかの国の王子様のような彼が、変身しないシンデレラなんかに目を留めてくれるわけがない。
 それならば結果など出さないで、ずっとずっと夢を見ていたい。
 追いかける権利を奪わないで欲しい。
 
アン『モーリーのばかばか!』
 

▽つづきはこちら

 いつもおちゃらけている友人を今日のこの日ほど恨んだことはない。
 わかっているのだ。
 彼の次の言葉くらい。
 わかっているのだ。
 過剰な期待をしてもいいほど、アン=ブラウンという少女が現実には魅力的じゃないってことくらい。
 多少の美人だって彼の前では自信を砕かれてしまうというのに!
 真面目でおとなしいだけの自分なんか……
 きゅっと目をつぶる。
 迫り来る残酷な衝撃にどうか耐えられますように。
 投げかけられる言葉は、「ごめん。タイプじゃないんだ」
 一瞬の間にこれだけ多くの思いと考えがアンの中で湧き上がって無秩序に駆け巡った。
 リクの言葉で殺されると覚悟した次の瞬間、アンはこの世で最も幸福な夢を見る。
 
リク「…………なんだ……。違うんだ。……YESかハイなら追えっ言うから、追ったんだけど……冗談だったんなら……」
アン「……え?」
  『YESなら……追え………』
 
 モーリーの言いそうな冗談だ。
 それを受けて追って来たということは……だ。
 
リク「あはは、驚いた。そりゃそうだよね。俺なんて………」
アン「まっ! 待って!!」
 
 思わず叫ぶ。
 奇跡が。
 奇跡が起こった。
 シンデレラが表舞台に立てるステキな魔法をちょっと太めになってきたモーリーという魔女がかけてくれた。
 
リク「うん?」
アン「う、嘘です」
リク「あ、うん、だから、わかったって……」
 
 本気にしてしまって恥ずかしいとはにかんで笑う彼は天使そのものだった。
 優しい光を携えた大きな翼で温かくヒロインを包む。
 
アン「ううん、そっちが嘘で…………その……だから……つまり……」
  「す……」
  「す……好き……です……」
 
 頬を染めて、少女はうつむいた。
 
リク「……………冗談の続き?」
 
 もう精一杯の勇気を使い果たしたアンは、言葉なく、必死でかぶりを振った。
 
リク「そう…。じゃあ、付き合おうか。……俺たち」
アン「……!!」
 
 心に光が差し込んだ。花が咲いた。
 比喩ではなく、本当に。
 少なくとも、アンはそう感じていた。
 決して、不美人ではないとは思うが、お世辞にも美人とも言えない。
 まとまることを知らない強情な太くて固い髪質に気になる顔のソバカス。
 ソバカスをモーリーはチャームポイントだと言ってくれるけど、ちっとも慰めになんてなりはしない。
 これさえなかったら。
 髪がもっとしなやかなブロンドだったら。
 もう少しくらいは、自分だって可愛いお嬢さんと思われてもいいハズなのに。
 いつもそんなことばかり考えていた。
 いくら都合のよい夢想を思い描いても、現実にリクの前に立つと気の利く言葉の一つも出て来ない。
 皆の中の埋もれた一人にしか過ぎず、誰かが言う台詞に合わせて笑うだけが精一杯の、彼女の定位置。
 常に陰から思い焦がれるだけ。見つめているだけ。
 それが今、積年の想いが果たされたのである。
 嬉しさの余りに泣き始めてしまったアンにリクが戸惑っている。
 彼女は今、紛れも無く恋愛小説のヒロインだった。
 
 
 翌日になると、すでに噂は一部に広まっていた。
 
カイル「あのおさげと付き合うことにしたってマジ!?」
 
 食事の乗ったトレーをリクの座っている横に乱暴に置くなり問い詰めて来たのは、カイルだった。
 
リク「おさげ? ああ、アン? そうだよ」
カイル「あんな地味なの?」
 
 会話の途中で逆隣にやってきたクレスが、トレーを置いて腰を下ろす。
 
クレス「あいってて……」
リク「どうしたの、何かボロボロだけど?」
クレス「べ、別に……」
 
 女の子の照れ隠しのために記憶喪失にさせられそうになったなどとはさすがに言えない。
 
カイル「クレス、聞いたか? リクってば、あのおさげと付き合うんだと。ありえなくね?」
 
 カイルがスプーンをかじってからその先をリクに向ける。
 
リク「ありえない? そう? アンはいい子だし……」
カイル「自分とアレが一緒に並んで歩いている図を想像してみろよ」
リク「……ええ? 想像って言われても……あんまり思いつかないんだけど……女の子と付き合ったことなくて」
カイル「超似合わねーって! ピエロみてー」
リク「お……俺が?」
カイル「ちっげーよ。あのおさげがだよ」
クレス「本人がいいっていうなら、放っておけよ」
 
 殴られたり蹴られたり散々だったけど、女の子から好意を寄せられてちょっぴり浮かれているクレスは一時的に心が広い。

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