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レイディ・メイディ 60-14
2008.08.10 |Category …レイメイ 60話
その根拠は、不思議と氷鎖女の子らが人面瘡さえなければ見目に麗しいという点からだ。
氷鎖女の子を通して、元凶となる女が愛されたがっているのではないかと解釈したのだ。
ところがだ。
せっかく綺麗に生まれついても、それを台無しにする不気味な人面瘡がある。
それだけならば、まだ隠せばいい。
心の広く優しい者ならば、その美貌にどうしようもなく惹かれる者ならば、醜い瘡ごと愛することもできるだろう。
また哀れなこの子を愛そうと努力した親兄弟もいただろう。
しかし、彼女らは生ける者が忌むべきどす黒い負の渦を常に抱えており、それが人を遠ざける。
問題は不気味な瘡に加え、沈殿した障気なのだった。
▽つづきはこちら
おびただしい障気は、生あるものの原始的な精神部分を刺激する。
意識下にあるソレは理性のコントロールを受け付けず、危険警告を鳴らし続ける。
危険警報は恐怖や悪寒として全身に伝わり、結果、呪いを持つ者を遠ざけるようになるのだ。
普通の人間からすれば、底の知れない化け物として映るのである。
美しいのに、化け物。
悪意ある美は人を惑わすが、決して心から愛されることはないのだった。
解き方があってないよいなものというのは、このためだ。
滅ぼす者という危険性からしても、氷鎖女の子は殺さなくてはならない。
愛してやるには、積年の恨みつらみがほとばしっており、気味が悪すぎる。
追い討ちをかけるように、蔑まされて生きる氷鎖女の子は必ずといっていいほど、卑屈で陰気。
これでは心から愛せというのが土台無理な話だった。
もしもこれが単なる物語であるならば。
そして呪いを愛で解かしてくれる相手がいるならば。
これ以上はない浪漫めいたお話になるのに。
残念ながら、呪いが蔓延して数百年。
誰もこの呪いを解くことは叶わず、生まれながらに黒いモノを引き受けた者は1人残らず命を落としている。
醜さゆえに誰に愛されることなく、孤独のままに殺されるのだ。
現在も、鎮という暗い青年の身を蝕み、朽ちさせようとしていた。
氷鎖女の子もあの姉と夫の子孫には違いない。
呪いにとっては、敵なのである。
一族を葬り去るための手駒で、氷鎖女の女が愛して慰めてもらうための手段としての氷鎖女の子。
しかしそのどちらも叶わない場合は、制裁による死が待っている。
一族を救うため、祭りのために殺されるか。
崇り殺されるか。
いずれにしても生きる望みなど、残されてはいないのだった。
鎮「もしも」
偲「もしも?」
鎮「……もしも仮に解いてくれる者がこの世にいるとするならば、シズは…………残りの命、人生全てをその者に捧げてもよぅございます」
そっと自分の胸の前で手を合わせる。
偲「………………」
鎮「解いてくれる……」
愛してくれる……
鎮「そのお心以上にきっと……、きっと報いる」
その代償に、相手をそれ以上に愛するだろう。
どんなことでも聞き入れ、持てるものは全て傾け、与えるだろう。
ぎゅっと合わせた手で着物をつかんだ。
鎮「……それこそ、あり得ないことではございますが……」
言って馬鹿らしくなったか、力を込めた手を緩めて下ろす。
そう、あり得もしない例え話など、空疎で虚しいだけだ。
偲「……シズ……苦しいか」
哀れを誘われて、頭に手を乗せる。
鎮「苦しい」
偲「辛いのか」
鎮「……辛い」
偲「せめてお前が女子(おなご)であったならな」
鎮「………は?」
偲「俺が」
鎮「………………」
偲「解いてやれたやもしれなかった」
鎮「………………………」
偲「……許せ」
引き寄せてゆるく抱きしめる。
鎮「いいえ……いいえ、あにさま。シズは……シズはそのお言葉だけで、充分報われてございます」
再会して初めて小さく穏やかな笑みを見せた。
昔のように。
どこかあきらめを含んで。
偲「お前が儚くなるまで(※死んでしまうまで)いくばくもないというならば、兄はその命の灯火が消えるまで側にいよう」
鎮「願い……聞き届けて下さるか」
偲「看取ってから、里に連れてゆく。それでよいな?」
鎮「はい、あにさま」
「お心遣い、ありがとう存じます。シズには……シズがいなくなったあとに心配な者たちが少しばかりおりまして……せめてその者たちの生活がなりゆくよう計らいたいのでございます」
偲「お前はいつも…………」
鎮「はい」
偲「……いや」
いつも人のことばかりだなと言いかけてやめた。
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