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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 60-12

 再会が穏やかなものであったなら、自分だってこんなに食い下がったりはしない。
 そのくらいはわきまえているつもりだった。
 先ほどの様子が気になるのか、やがてクロエとフェイトも追いついて来る。
 保健室に舞台を移してまたやりあっていたら大変だ。
 最後に見た先生の様子ではそれはないとは思っても。
 二人も同じように考えているに違いなかった。

▽つづきはこちら

 一足早く保健室に着いた鎮は、素早く室内を見回した。
 
鎮「異常はござらぬか、みっちー殿」
ミハイル「ミッチーゆーな。異常はお前の頭だけだから安心しろ」
鎮「あにさまは?」
ミハイル「いるだろ、そこに」
 
 人形を抱えた青年は物珍しそうに保健室の棚などを覗いており、別段、変わった様子はない。
 
鎮「あにさま」
 
 呼ばれて兄が振り返る。
 
鎮「目的は、鎮の命にございますな? 里が困っておるのでございましょう。氷鎖女祭りができなかったとゆぅて」
 
 保健室を出て行く前とは違い、いくぶん落ち着いた態度に戻っている。
 授業中もどう対応していいかずっと考えていたのだろう。
 前触れもなく、二度と会うことはないと思っていた意外な人物が尋ねてきたのだから、混乱も無理はない。
 懐かしくて嬉しくて飛びついてしまいたい衝動は強くあったが、兄がここにいるということは、使命を帯びているに決まっている。
 その使命とは言うまでもない。
 村から逃亡した自分を殺すことである。
 
鎮「放っておいても、鎮はもう長くはありませぬ。どうぞ捨て置いては下さりませぬか?」
 
 殺されるだけの理由は2つ。
 一つは村の掟を破って抜け忍になったこと。
 二つ目は15で人柱にならなくてはいけなかったものを20過ぎまで生きていること。
 鎮が殺される理由としては、特に二つ目が重大だ。
 
鎮「今よりとって返し、鎮を討ち取ったと……里にそう告げて下されば。問題ありますまい」
 
 里には「氷鎖女祭り」というものがあり、十数年に一度の12月31日。
年の終わりに災厄から里を守る儀式として供物を捧げることとなっている。
 供物というのは、生まれながらに呪いに選ばれて体のどこかに瘡を持つ子供……「氷鎖女の子」と呼ばれる者である。
 この供物を捧げれば、里が救われると一族全体が強く信じているのだった。
 氷鎖女という女は、一族の命を欲している。
 だから誰かしら犠牲にしなければならない。
犠牲となるのは決まって醜く呪われた子供だ。
氷鎖女の子は数十年に一人、必ず双子の片割れとして生まれてくる。
こんなモノが生まれるのは、命を捧げよという合図だとして彼らは認識していた。
 15まで育てたその子を生贄として差し出せば、またしばらくの間、里は平穏でいられる……これが氷鎖女祭りの意味である。
 それなのに鎮が生きていた。
 15になる前に川に身投げして死んだと思われていた頃は、それはそれで少し早くに捧げたことになるだろうからいいだろうと村の衆は納得していたが、生きていることがわかると、大混乱である。
 氷鎖女との約束を破ってしまった。
 氷鎖女祭りを行わなかった!
 彼らにとってこれはただ事では済まされない、一族存亡の危機なのである。
 身内として責任を取らされて派遣されたのか、実力者ゆえに選出されたのか、はたまた自ら買って出たのかわからない。
 だが、偲は間違いなく、供物を持ち帰る使命を帯びている。
 
鎮「あの女共は、里にはおりませぬ。今も鎮に憑いているのでござる。だから、近いうちに訪れる氷鎖女の子の死は、あの女共が直接看取ることになりましょう」
 
 看取るどころか、直接手を下してくるだろう。
 まさに呪いとして。
 
鎮「逃げる口実などではありませぬ。シズはもうすでにあの女共に追いつかれております。あとは引きずられて取り殺されるのを待つばかり。どうぞ…………」
 
どうか放っておいて欲しい。
気持ちをかき乱さないで欲しい。
すぐそこまで迫る死を、死に対する恐怖をどうにか飼い馴らしてやり過ごそうと思っていたのに。
平穏な毎日が続くこの場所で。
仮面で素顔を隠しているとはいえ、一人の人間として受け入れられているこの場所で。
息を引き取る直前まではここにいたい。
自分を辱める笑い声じゃなくて、屈託のない明るい笑い声が溢れる希望に満ちたこの場所。
その希望が自分のものでなくても、輝かしい未来を思い描く彼らを傍で見ていられるだけでいい。
弱みにはならないと強がって見せたが、失われたらきっと打撃は被るだろう。
だからこそ脅して遠ざけようとしたのだ。
彼にとって、大切な最期の砦。
正体を知られずに通すつもりだ。
本当に死が近づいたら、どこかに隠れて自刃するつもりでいた。
それまでは、明るい場所にいたいと願っても悪くはあるまいと自分に言い聞かせて居座っている。
 
鎮「シズを哀れと思って下さるならば……どうか……」
 
 兄は黙って命乞いを聴きながら、涼しげな目をこちらに向けている。
 何を考えているのか読めない表情をして。
 
偲「………おシズ」
鎮「はい、あにさま」
偲「お前は……じき死ぬのか」
鎮「さようでございます」
偲「……当ては……ないのか?」
鎮「……当て……?」
偲「呪いを解く当てだ」
鎮「……ハッ! 当てなど……」
 
 皮肉めいて、しかし力なく笑う。
 
鎮「あろうハズがござらぬ。このシズに……」
 
 この醜い化け物の呪いを誰が解いてくれようか。

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