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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 60-11

偲「………………」
『…………似てない……』
 
 成人した弟の素顔と初めて直接対面してやっぱりと納得する一方で少し驚いた。
 一目見て、いやに小さいなという印象は持ったが。
 それにしても。
 子供の頃から似てないと思ってはいたが、大きくなれば双子であることだ。
 少しは似てくるのかと思ったら。
 
鎮「弱み? ……いいえ、あにさま」
 
 ややあって、鎮の、猫を思わせる金色の眼が愉快そうに細められた。
 

▽つづきはこちら

鎮「残念ながら、その理屈は。このシズに通用いたしませぬ」
 
 およそ人の温かみとはかけ離れた、氷の華のような微笑を咲かせると、室内の温度まで下がった気がした。
 額当ての落ちた音で一度振り向いたものの、すぐにまた仕事に取り掛かったミハイルさえも一瞬、無意識に身を震わせていた。
 事情も知らず、会話の内容も知らず、こちらを向いてもいないのに。
 鎮から発せられる正体不明の重圧を感じているのだ。
 
偲『………………』
 
 ……整っている。
 これが、氷の微笑を受けた偲の感想だった。
 
鎮「シズは普通ではございませぬ。弱みと思ぅて握りやれば、必ず。……後悔いたしますぞ」
 
おかしな言い方だが、気味が悪いくらいに。
 少しでも隙を見せれば、魂まで持っていかれそうだ。
 この底の見えない、暗い微笑みに。
 
偲「……よく」
 
 ふいに相手の顔に手を近づけた。
 
鎮「……?」
 
それから人面瘡に小さく食いちぎられた指で、鎮の唇に血を塗ってみる。
 
偲「わかった」
 
弟は、兄の無意味な行動に何事かとわずかに眉を寄せたが、結局、それにも反応を返さず、無視と決め込んだ。
 
鎮「鎮は怖い、と…………心得て下され」
 
 低く言い終わると同時に射抜くような視線が鋭さを増す。
 そんな彼は血の紅を差していっそう美しく、不気味に映った。
 
偲『…………魔性……だな』
 
 警戒と猜疑心、そして敵意を一先ず鞘に収めて、鎮はゆっくりと偲から離れた。
 裏側にびっしりと封魔の呪文が書かれた額当てを拾って装着すると、部屋の重い空気が途端に中和されていく。
 身から発していた負の力が抑えられたのだ。
 空気が変わり、やっと息ができるとばかりにミハイルが大きく胸を上下させた。
 
鎮「みっちー殿」
 
 普段の態度に戻って、鎮がローゼリッタの言葉で呼びかける。
 
ミハイル「お、おう」
鎮「兄をよろしく頼みまする。講義が終り次第、すぐに取りに来ますゆえ」
ミハイル「わ、わかった」
鎮「くれぐれも気を許さぬよう」
ミハイル「……ナニ?」
鎮「では」
 
 兄に一礼して、彼は立ち去った。
 音も立てずに。
 
ミハイル「…………何だ、ありゃ?」
偲「…………」
人形「鎮、コワイ!」
 
 いきなり可愛らしい声が参入してきてギョッとした。
 
ミハイル「げっ!? 人形が……って、なんだ、腹話術か」
人形「せっかくあにさまが迎えに来たのにヒドイヒドイ! 偲、泣いちゃう!」
ミハイル「ヒサメっていうのは…………全員変なのか?」
 
 誰もが持った感想。保健医もまた同じ結論にたどりついたらしい。
 少なくともヒサメは兄弟そろって、変だ。
 
人形「聞いて、ミチハル殿!」
ミハイル「……ミハイルだ」
人形「鎮ったら、拙者がミチハル殿を殺してバラバラにして埋めるとか思ってるでござる! そんな面倒臭いことなんかしないのに!」
ミハイル「知るか。ところで僕はミチハルじゃなくてミハイルだ」
 
 
 授業が終わると、生徒の興味本位の質問に答えることなく、鎮は保健室へと走って行ってしまう。
 
ジェーン「あ、行っちゃった。つまんない」
アン「お兄さんが来て、嬉しいんだよ」
ステラ「結局、何だったの? ついて行ったんでしょ、クロエ?」
クロエ「うん……そうなんだけど……」
モーリー「泣いた、泣いたぁ? あの鉄仮面先生が泣くのって想像つかないんだけどぉ♪」
クロエ「泣かなかったよ……ニンジャは人前じゃ泣かないの」
カイル「いえ、リクにいたぶられてしょっちゅう泣いてますよ?」
ステラ「アンタも泣かしてるじゃない、クロエ」
クロエ「いいの、それは」
ステラ・カイル「……いいんだ?」
 
 ザ☆自分本位!!
 
クレス「……どこ行くんだよ、リク」
 
 急ぎ足で出て行こうとするリクをクレスが呼び止めた。
 
リク「……ちょっと」
クレス「二人の間に入るなよ」
リク「いや…そういうつもりじゃ……」
クレス「……放っておけばぁ?」
 
 お前、邪魔なんじゃないの? という意味合いを含めて言う。
 
リク「わかっているよ」
 
 そう口では返しながら目的地を変えることなく、リクは教室を出た。

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