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レイディ・メイディ 28-17
2008.03.21 |Category …レイメイ 28話
地上に大きくはい出して、腰掛けて休むのに丁度良い木の根っこを叩いて、座ればいいと無言の合図を送る。
そうしておいて、自分はもう関係ないものとしてあさっての方向に体を向けてしまう。
一見、つっけんどんな態度だが精一杯の親切心。
ナツメは少し驚いたようにギギギ、とぎこちなく首をかしげた。
氷鎖女『ふぅん? ナルボド』
なるほど、クレスは案外気の利く優しい性格だ。
クラスではあくまで教師と生徒。そして必要以上に関わることを拒否する氷鎖女は教え子一人一人の内側の性格までは熟知していない。
彼が注意して観察しているのは、魔法を操る上での適性。
それから戦いの場においての一面性の性格だけだ。
▽つづきはこちら
別人の仮面をかぶってなら、後々の面倒にはならない。
元々、ナツメなどという少女はこの世に存在しないのだから、もう少し親しくなって彼らを近くで観察してみても良い気がした。
内面は戦闘時にも大きく関わってくる。
知っておいて損はない。
今後、何か助言してやれることも出てくるかもしれないとも考える。
それでクレスの隣に遠慮がちに座ってみた。
男らしく、どっかと座ってしまわないように気をつけながら。
今度は顔を背けたまま、横目でチラチラ様子をうかがっていたクレスの方が驚いた。
クレス『あれ~? 来たよ』
呼んでおいて何だが、本当に来るとは少ししか思っていなかったのだ。
だって自分は嫌われ者だったから。
魔法使いの家系に育った彼は、養成所に入学する前から魔法を操ることができ、その力に酔いしれていた。
初めての試験でちょっと実力の程を見せつけてやるかと必要以上の力で周囲を圧倒した。
その際に、多くの人を殺しかけたことがあって今では「危ない奴」のレッテルを貼られ、遠巻きにされてしまっている。
丸っきりの自業自得なのだが、いじめられっ子だったクレスは、我が身を守るためにはまず自分が強いことを証明しなければならないと思っていたのだ。
確かにそのおかげでこの養成所では誰一人として彼に逆らう者はないが、それ以上に人としての距離は空いてしまっていた。
そんな彼に臆面なく近づいてくるのは、同じクラスではリク、メイディア、ジェーンのたった三人だけ。
他はこの試験でのチームメイト、そしてリクやメイディア関係で、本来なら知り合いになりそうもない、赤薔薇のレイオットと青薔薇のレクくらいなものか。
メイディアと並んで、いや、危険なだけにそれ以上に有名なこのクレス=ローレンシアに自ら近づいてくる酔狂者は滅多にいないのだ。
クレス「……………………」
クレスは興味ないフリを装って、相手が話しかけてくるのを待っていたが、ナツメは相変わらず口を堅く結んだままだ。
けれどクレスに脅えているワケではないらしい。
痩せぎすな体を伸ばして、あくびなんかを呑気にかましている。
クレス「??」
『ええっと……』
恐れられてはいない。
それどころか隣であくびをかますこのリラックスぶり。
けれどおしゃべりをしようというのでもない。
黙ったままで二人が座っていると休憩していたフェイトが提案した。
フェイト「今日はここで野宿するか」
クロエ「賛成!」
山登りと戦闘で身体に疲れを訴えていたクロエが即座に手を挙げる。
メイディア「待って! ワタクシ、急いでおりますのっ! まだ夕暮れには時間がありますわ、もっと進みましょうよ!」
反対者が一人。
フェイト「……ハリキッてくれるのは有り難いが、日が完全に暮れる前に野宿の用意はしないとだろう。夜通し歩く訳にはいかないんだ」
メイディア「ワタクシ、一晩歩いても平気です!」
フェイト「じゃあそれはラストスパートにとっておいてくれ」
メイディア「むー……」
事実上、無理だと理解したメイディアは渋々承諾した。
前回のこともあってか今日日の彼女は素直で助かる。
フェイトはダレスに見張りを頼むと、自らは進んで蒔き拾いのために足を踏み出した。
散々山を登った後で疲れているのは誰も一緒だったが、彼は他人に言うことを言うだけあって、やることもきっちり人並み以上にこなす努力家だった。