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レイディ・メイディ 第23話
2008.02.14 |Category …レイメイ 21-23話
第23話:鬼姫
シャトー家。屋敷。
嫁ぎ先の決まった一人娘が、よりにもよって薔薇の騎士団養成所に勝手に入所したまま出て来ないとの知らせを受けて館主が戻って来たのはつい先日のことだ。
母「貴方!! どうしてもっと早く戻って来て下さらなかったの!? 連絡しましたのに!!」
細工美しいテーブルを乱暴に叩いて、シャトー伯爵夫人は声を荒げた。
父「わかっている。だが、私も外交官だ。忙しいのはわかっているだろう」
外国を飛び回っていた伯爵は疲れたように言ってソファーに腰を沈める。
シャトー伯爵は伯爵号の中でもかなりの権限を有する名家だ。
伯爵はいくつもの外国語を操り、その有能ぶりには舌を巻くほどで、外交官という大役を任されていた。
夫人の方はなんと、前女王の末妹の孫にあたるのだった。
そしてまた、娘のメイディアも公爵家に嫁ぐことが決まっている。
伯爵といえど、ここまでの力を有する家はそうそうお目にかかれない。
▽つづきはこちら
母「忙しい忙しいって……娘が戻って来ないのに、お仕事の方が重要だとおっしゃるの!?」
父「ああ、そうだ。娘がワガママを言っているから、私は戻りますと諸外国のお偉方にいちいち言うのかね?」
母「公爵家との縁談ですよ!? それももう、今年の12月には挙式なのに」
父「そのために君がいるんじゃないのか? 母親だろう」
ため息交じりにティーカップを手にとった。
母「母親母親って……では貴方は何だというのですっ!!? あの子のために何かしてあげたとでも? それとも父親は必要ないとでもおっしゃるつもりですか!!」
紅茶をすするのをやめて、
父「何を言っているんだ。私はちゃんと父親のつとめを果たしてきたつもりだ」
母「結婚相手を決めたのは私です!! 貴方は何もしてくれなかったじゃあありませんか!!」
父「まだ早いと思ったんだ」
いささか乱暴にカップをソーサーに戻す。
中の液体が大きく揺れてやがて収まる。
母「早いだなんてそんなことはございませんわ!! 13でお嫁にゆくお嬢さんだっているくらいですのよ!? 来年にはあの子も16。充分ではありませんか。それにワイズマン公がお望みならば12だろうと11だろうと差し上げても構いませんでしょ、それがあの子の幸せというものですわ」
父「君は爵位にこだわりすぎる……」
母「こだわって何が悪いの? 私は女王陛下の妹君にあたるソフィー様の孫なんですからね!!」
父「またそれか……僕は君のそういうところに心底嫌気がさすよ。まるで格下の伯爵家に嫁いだことが不満で不満でならないと言われているようだ」
昔から何かというと自分は前女王陛下の妹の孫だということをことさらのように主張する妻。
妻に何一つ不自由などさせたことがないつもりなのに、このような言われようでは自尊心が傷つかないワケがなかった。
そうして夫は別の女に流れていったのに、何年経ってもこの関係は変わらぬままだ。
母「そんなことは言っていないでしょう!! でも貴方!! より位の高い貴族に娘を嫁がせたいと思うのは親の心でありましょう? それの何が悪いというのですか!?」
父「わかったわかった」
母「投げやりに言わないで!!」
父「投げやりになんて言ってないっ!!」
とうとう伯爵も声を大きくしてテーブルを叩いた。