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雨が雪に変わる頃 8
2007.12.29 |Category …箱庭の君 短編1
私は。
何日もずっとなきがらの傍ら(かたわら)にいました。
周囲には、かつては宝物であったガラクタが、無数に転がっていました。
………………………………………。
…これは、私があるいけない結論にたどりつく数日前のお話です。
雨が雪に変わる頃 7
2007.12.29 |Category …箱庭の君 短編1
「アンタ、今までどこほっつき歩いていたのさっ」
涙ながらに私を責め、その場にしゃがみこみました。
「早く行っておやりよ」
私はこの女は変だと思いました。
それで、敷居をまたいで小雪さんに言いました。
「雪はもうちょっと待って下さいね」
「………………」
アレ? 返事が返ってきません。
「…小雪さん?」
「小雪さんっ!?」
横たわった小雪さんの顔には何故か白い布が乗せてありました。
雨が雪に変わる頃 6
2007.12.29 |Category …箱庭の君 短編1
「初めて会ったのも、こんな日だったね」、と。
私はそうだったっけ?…などとのんきな言葉を返したと思います。
けれどそんな言葉を聞いてか聞かずか、小雪さんは続けました。
「あ、ホラ…雪が混じってきた」
ちらちら、ちらちら。
「銀色で…白虎みたい…キレイ…」
落ちくぼんだ目を細める。
私もつられて外を眺めました。
しばらく黙って見ていましたが、ふいに小雪さんが言いました。
「ねぇ…欲しい物があるの」
雨が雪に変わる頃 5
2007.12.28 |Category …箱庭の君 短編1
ああ、そうか。
この着物に赤い染みがついてしまったから、気に入らないんだ。
「今度はもっと良い物をとってきますよ。絶対、気に入ると思います」
……でも。
小雪さんは意外とワガママでいらっしゃって、何をとってきても気に入ってくれないんですよ。
女性のワガママには魅力がありますが、それにしても度が過ぎると困りもの。
一体何が欲しいのかと聞いても、そっぽを向くばかりで……。
とうとうあまり口も利いてくれなくなりました。
「いらない。貴方の手から渡される物なんか、何一ついらない」
放り投げられた宝石や着物ばかりがたまってゆく。
彼女に見向いてもらえない宝物は、もはや宝物ではなくて、ただのガラクタに過ぎません。
雨が雪に変わる頃 4
2007.12.28 |Category …箱庭の君 短編1
月日が流れて、体が癒えても私は彼女の側を離れませんでした。
私の話をおもしろいと言って、小雪さんはずっと耳を傾けていました。
彼女にもっと笑って欲しいと思い、私は作り話もしました。
今にしてみれば、誰にでもわかる幼稚な嘘でした。
けれど小雪さんは微笑んでくれるのです。
……私は嬉しかった……
小雪さんには色々なことを教えていただきました。
言葉遣いもそうです。
私の言葉が悪いと、それだけで皆さんが怖がってしまうので良くないそうです。
私は助けていただき、お世話になったお礼に、家を直し、小雪さんの仕事を手伝いました。
小雪さんは、機織りして、町に売りに行くんですよ。
スゴイんです。
まばゆいばかりの絹を織り上げるのです。
けれど……。
雨が雪に変わる頃 3
2007.12.28 |Category …箱庭の君 短編1
けど、私は文句を言いつつ、結局全部いただきました。
それで気づいたのですけど、女性は何も口にしていませんでした。
雪をつまんで口に入れるだけ……。
……そうです。
あの一杯は彼女が食べるための物だったのです。
私などという余計な者を拾ってしまったために、彼女の分がなくなってしまったんですよ。
でも。
そんなの、私には関係ないでしょう?
だって、彼女が勝手にやったことです。
私は頼んでもいないんですよ?
ねっ?
そう思って、私はまた眠りました。
朝になって目を覚まし、ぎょっとなりました。
彼女が私の腹の当たりで丸まって寝ていたからです。
雨が雪に変わる頃 2
2007.12.28 |Category …箱庭の君 短編1
この私が。
きかん坊で自意識過剰ぎみでしたから。
また、そうさせるに充分な生を歩んできてしまいましたから。
誰も私に敵わないっていう、ね。
井の中の蛙……とでも言いましょうか。
お恥ずかしい話です。
やがて雨が雪に変わる頃、私の意識は途切れかかっておりました。
上には雪が降り積もり、動くのがだるくなっていました。
それでも自分が死んでしまうとは思っていませんでしたけどね。
丈夫が取り柄ですから。うふふっ。
ただ、失意でぼ~…っとしちゃってただけですよ。
心配めさるな。
だけど、命あやうしと思ってくれた方がいたんですね。
通りがかりの見知らぬ女性でした。