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レイディ・メイディ 60-9
2008.08.07 |Category …レイメイ 60話
現場では、傷口を押さえもせず流れる血をそのままに、偲が静かな声でこう告げていた。
偲「甘く見てなどいない。ただ、斬りたくばそれもいいと………………思っただけだ」
鎮「……………………」
力なく、弟がひざを折る。
隠れていたのを忘れ、クロエがぱっと駆け出した。
クロエ「回復魔法を!」
フェイト「あっ、オイ」
リク『………シズカ……』
後に続く2人。
▽つづきはこちら
走り寄ったクロエは偲の肩口に迷いなく回復の光を当てた。
クロエ「驚かないで下さい。私は白魔術師です。……あ、見習いの」
偲「……………」
みるみる内に痛みが引いて、早くも皮膚の再生が始まった。
これが姫君の力かと偲は少し驚いたが、口にはしなかった。
クロエ「思ってたよりも浅い。これならすぐに完治できそうだわ。でもミハイル先生のところで縫ってもらった方がいいわね」
リク「大丈夫ですよ、お兄さんは」
しゃがみこんで震えている鎮の肩をリクが抱いて立たせようとした。
だが、本人の身体に力が入っていないために、また座り込んでしまう。
リク「心配ないから。クロエがホラ、魔法をかけてくれてるし。傷も深くないって。ね、そんなに怖がらなくても、大丈夫だから」
唇まで真っ青になった鎮は言葉なく、何度もうなづいている。
リク『……すごい……震えてる……こんなに……』
これほど取り乱したヒサメを見るのは初めてだ。
薔薇の騎士を育て上げる教官。
生徒総当りでも、カスリ傷一つつけられない実力者。
どこまで強いのか、まだ先が見えない。
感情を仮面の下に隠して、いつも本音が霞に覆われている。
そんな彼のもろい内側をこんな形で目の当たりにすることになろうとは。
元々小柄な彼がもっとずっと小さく見えた。
リク『こんなに……小さかったかな……』
クロエが偲に魔法をかけ、リクが鎮に注意を向けている間にフェイトは血にまみれた刀を拾い上げていた。
フェイト「とんでもない兄弟ゲンカだな、ホントに」
10年ぶりの再会でいきなり真剣を抜いて切りかかるとは……どういった経緯なのだろうか。
保健室に偲を連れて行くとミハイルに盛大なため息をつかれてしまった。
ミハイル「部外者を引き入れるなんて。何を考えているんだ」
鎮「申し訳……ござらぬ」 しょぼん。
リク「先生のせいじゃありません。俺らが勝手に連れてきたんです」
フェイト「“ら”じゃない、“ら”じゃ。お前だろ」
リク「いや、その……」
ミハイル「……まったく。で? コレが何だって?」
偲「………………」
クロエ「ニンジャのブンシンノジュツです」
ミハイル「わかる言葉で説明しろ」
リク「先生のお兄さんです。双子の」
ミハイル「わかる言葉で説明しろ」
リク「いや、ですから……双子の……」
ミハイル「双子どころか他人以外の何者にも見えねーっつってんだよ。ヒサメの奴と背も顔の系列もまるっきり違うじゃねーか。本当だとすると詐欺だな、こりゃ」
さらりと出た軽口に、生徒3人がはたと止まった。
気づかずにミハイルは消毒液の瓶を棚から選び出している。
リク「顔の系列が……」
クロエ「まるっきり違う……?」
フェイト「先生、見たことあるんですね?」
ミハイル「……あ」
言ってはいけない約束だったことを思い出して、しくじったと舌打ち。
ミハイル「オマエラ、用がないなら早く教室戻れ。授業中のはずだ」
ごまかしついでに生徒たちを無理やり締め出すと鎮にも同じように言った。
ミハイル「ヒサメ……と言ったら、この兄貴もか? ……じゃあ、シズカだな。シズカも戻れ。生徒を放ったらかしにしているんだろ、どうせ。兄貴は保健室で預かっておくから、後で拾いに来い」
鎮「………………」
ミハイル「どうした?」
鎮「いや」
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