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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 60-7

リク「先生、あの……」
氷鎖女「……誰?」
 
 注意深く教卓に教本を置く。
 
偲「……………」
リク「先生のお兄さんって人が……」
氷鎖女(以後、鎮)「……………」
 
 “先生のお兄さん”という人物が椅子から立ち上がって前に2、3歩、歩み寄った。
 鎮は一歩下がって、帯に差した刀に手をかける。
 その場にいた生徒達は抱き合って泣いて喜ぶ感動の再会シーンを思い描いていたのに、予想外にもヒサメ先生の態度は硬かった。
 ぴんと緊張の糸が張り詰められる。
 
鎮「あにさま、で、ございますか」
 

▽つづきはこちら

 ふと目線が腕の中の古い人形で止まった。
 信じられないことが起こった。
 忘れもしない、あれはまさしく幼い日、自分が作ったつたない人形ではないか。
 世界広しと言えど、それを手にするのは双子の兄・偲以外にいない。
 だとすれば……!
 鎮の金色の目が驚きに見開かれた。
 もちろん、外からは額当てが邪魔してわからないが。
 
偲「………………」
リク「……先生、知らなかったの?」
クロエ「お兄さんが迎えに来たんですって。もしかして、帰っちゃうの?」
鎮「……ほぅ? 迎えに……迎えにねぇ?」
 
 黙って固まっていた鎮が、生徒の言葉を受けてようやく反応を示した。
口元を吊り上げて、皮肉の笑いを作る。
 物静かで、笑うにしても仕草が小さい彼にしては珍しい。
 
クレス「兄弟ゲンカかなんか知らないけど、もうやめろよ」
鎮「ナルホド、迎えにきなすったか。ああ、ようわかりました」
偲「………鎮」
 
 兄と名乗る男が口を開いた。
 
鎮「お懐しゅうございます」
偲「…………」
鎮「お会いしとうございました」
偲「…………」
 
 東の国の言葉を使った会話となり、生徒達は顔を見合わせる。
 教官のしゃべる言葉が理解できない。
 こうしてわからない言葉を操っているとやはり、彼は外国人なのだと改めて思う。
 
クロエ「リク、何て言っているの?」
リク「懐かしい。会いたかった……と」
クロエ「……そ、そっか。そうだよね。よかった。さっきなんだか変な雰囲気みたいだったから、ドキッとしちゃった」
リク「……いや……やっぱりおかしいよ」
クレス「何が?」
フェイト「やっぱりあの人、ウソついていたんじゃないのか?」
クレス「??」
 
 じりりと間合いを詰めて、鎮は刀で斬りかかれる位置にまで足を踏み込んだ。
 
鎮「……皆の衆、申し訳ござらぬが、しばし自習を頼む」
 
 今度はローゼリッタの言葉で生徒達に言い、細いあごをしゃくって、兄を教室の外へと誘った。
 
リク「……様子が変だ。俺、ついていく」
フェイト「俺も行こう。確かにおかしい」
クレス「僕も!」
クロエ「私も!」
カイル「俺も!」
ジェーン「私も!」
フェイト「いや、そんなモジャモジャ来るなよ。気になるのはわかるけど」
カイル「だったらオマエ残れよ」
フェイト「俺はだな、興味本位じゃなくて……」
カイル「なんだよ、一緒だろ」
リク「いや、黒魔術の俺と剣士のフェイトで」
クロエ「待って! 白魔法も必要かもしれないでしょ? 私も行くわ」
クレス「何が起こるってワケじゃないんだろ? 懐かしいって言ったんじゃないか」
リク「……頼むよ。何でもなければそれでいいし……ただ、少し気になるんだ」
 
 こうまで言われては仕方なく、他の生徒達は引き下がるしかなかった。
不満げな表情を浮かべたまま。
 
リク「先生は気配を読むのが尋常じゃない。かなりの距離を開けないとだから。気をつけて」
フェイト「わかった」
クロエ「リクこそ気をつけてよ? この中で一番、その点については怪しいんだからね」
リク「君の言うとおりだ、クロエ。気をつけるよ」
 
 10年越に再会した双子の片割れに誘われて、偲は無防備についてゆく。
 階段を下りて、校舎の裏に回ってから先を行っていた鎮が振り返った。
 
鎮「遥々このようなところまで、ごくろうでしたなぁ」
偲「…………」
鎮「今頃になって、何用でございましょう」
偲「…………」
鎮「……いいや。聞くまでもございませぬな。……ここまで連れに来たというからには、目的など知れたこと」
 
 長い袖で口元を隠す。
 これでまったく表情は読めなくなった。
 
偲「…………」

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