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レイディ・メイディ 31-4
2008.04.14 |Category …レイメイ 31・32話
あんなにモタついて……。
あの様子では生徒たちにナメられているというのもうなづける。
戦場で相手の手の内を読んだりすることが得意なクセに、通常の会話などに機転の利かない氷鎖女。
彼は子供の頃から人とのかかわりがあまりにも希薄過ぎたのだ。
コミニュケーション不足、というやつだ。
慣れた相手ならまだいいのだが、初対面の人間にはとことん弱い。
それも困ったことになるとあわててしまって切り返しもとっさに出て来ないというありさま。
いつも一杯一杯のしどろもどろだ。
本当の意味でにっちもさっちもいかなくなると思わずリクを引っ掻いてしまったように、とっさに手が出てしまうこともある。
言葉で上手く相手に伝えられないときに行き場のない感情が破壊行動や拒否反応に転化する、これは一種の幼児性で、氷鎖女はそれを持ったまま成長してしまった未熟な人間である。
普段はもちろん良識もある大人なので、そうそう幼い一面が表面化して他人を傷つけるようなことはないが、彼にとっては苦痛でしかない、見つめられるという恐怖に取り憑かれたとき、心の片隅で何かを恐れていつもひざを抱えて震えている子供の彼が頭をもたげるのだった。
▽つづきはこちら
氷鎖女「アレー……あのー……」
言葉を探してキョロキョロとせわしく、眼球が左右に動く。
ダンラック「さぁ、行きましょうねぇ、子猫ちゃん」
氷鎖女・ミハイル『KONEKOチャン!?』
再びがびーんっ!?
いちいち反応している場合ではないのだが。
氷鎖女『……キモチガワルイ……』
これ以上追い詰められるときっとまた手が出てしまう。
相手は男爵でもなく、伯爵でもない。
……国に直接影響力のある公爵だ。
女王陛下でさえも手出しはできない公国を支配している。
この土地に特別な思い入れのない氷鎖女は無礼を働いてもさっさと身をくらませてしまえば構わないのだが、半分人質のような親善大使・ミハイルの手前、そういうワケにもいかなかった。
公爵とて些細な事から国同士の同盟を破る真似はしないと思うが、それはミハイルとて同じこと。
多少のことは目をつぶらなければならない立場を逆手にとられて、妙な言い掛かりをつけられてしまう可能性も否定できない。
それに。
それにだ。
一時の借り宿として身を置いた養成所も、始めは安請け合いしたと後悔したこの教職も、今では割りと気に入っている。
受け持ちの学徒たちの成長ぶりをもう少し側で眺めていてもいいと柄にもなく思っている。
そういえば、試験前で途中になっていたリクとの将棋の勝敗の行方も止まったままだったことを思い起こす。
あらゆる理由をあげつらね、なんとか自分を抑えてここを上手に切り抜けようとするが、考えれば考えるほど反比例して言葉は形を形成してくれない。
ダンラックが腕を伸ばすと、氷鎖女が身構える。
とっさに腰の小太刀に目がいって、すぐに視線を外した。
ミハイル「廊下から行っても仕方ないだろ、こっちから出ろよ」
もう一度ミハイルが助け舟を出して、外扉の方を開け放ってやった。
廊下側の入り口を塞がれたので、“アレ”は、外から行った方が早いというふうを装ったのだ。
氷鎖女「そうだった」
用意された台詞を口にして、救われたとばかりに向きを変える。
ダンラック「コォラ、子猫ちゃん、捕まえましたよー♪」
氷鎖女「ギッ!?」
背中を向けた途端、後ろから抱きすくめられてしまった。
あまりの気持ち悪さに悲鳴も止まる。
ミハイル『う~わ~……』
ダンラックは養成所に何をしにきたのだか、毎日のように女子学徒や若い女性教員の尻を追い回しており、その度に教官たちが走り回らねばならず、責任はないはずなのに、シワ寄せがたまたま運悪く居合わせて捕まったままのアイビーの元へと寄せられていた。
とんだとばっちりである。
そのアイビーは試験途中から様子がおかしいと調査依頼を受け、自分の部隊を連れだって会場になった山へとわけ入っていた。
事件に向かうというのに、内心は肩の荷物を降ろした気になりながら。
霧が晴れたのが早かったのは、彼らの活躍のお陰である。