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ゼロのノート

ト書きでカンタン☆ 気楽に気軽に創作物語。

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レイディ・メイディ 30-5

アン「……な、何て言ったの、今?」

リク「今ならあの窪みに戻れるから、行ってくれないかって言ったんだ」

アン「そんな、無理よ!」

リク「ヒステリックにならないで。大丈夫。落ち着いて。できるから。でないと俺も死んじゃうんだよね」

 

 人事のように言う。

 そんな風に言われたら、挑戦しないワケにもいかない。

 震えながらもようやっとうなづいて、アンはリクの体を踏み台に先程までいた窪みを目指す。

 

リク「う」

 

 アンの足が肩に食い込んで、低く呻いた。

 心の痛みは感じないくせに、肉体の物理的な痛みだけはいっぱしに感じるのだから嫌になる。


▽つづきはこちら

アン「あ……っ、あ……怖い、やっぱり、やっぱり無理」

 

 指先が少し届いたが、そこでまた止まってしまう。

 あとは窪みに手をかけて、リクの肩から足をひいて腕の力でよじ登ってくれればいいだけなのだが、足を離すのがどうも怖いらしい。

 けれど踏み台にされたままではリクの方が耐えられない。

 

リク「もう……少し……がんばっ……」

 

 じりじりと位置が下がってゆく。

 

アン「うっ、ううんっ…………と。あっ……届いた、届いたよ、リクく……」

 

 体をめいっぱい伸ばして、やっとのことで窪みに両手をかけて振り向いたなら、足場が急になくなった。

 耐えていたリクの両手が離れてしまったのだ。

 思わず目をつむるアン。

 同時にすぐ側で、大きなものが落ちる音がした。

 

アン「……ッ!」

 

 目を、開けられなかった。

 ぶら下がったままどのくらい目を閉じていたのだろう。

 時間にすれば大したことはなく、せいぜい5秒かそこらだったはず。

 けれど次の展開を確認するまで、恐ろしく長い時間に感じられた。

 

「アンは早くお上がりなざい~っ!」

 

 聞き慣れた不快な声を聞いてアンはハッと斜め左上を見た。

 窪みの少し上にあった、リクが手放した古木にひざの関節をひっかけたメイディアが逆さ吊りになってこちらを睨んでいる。

 

アン「メ、メイディ……」

メイディア「早くお上がりったら!」

 

 逆さまで頭に血が上ったのか真っ赤な顔をして鼻の穴を大きく膨らませている。

 カボチャパンツ丸見えの彼女の体をたどって、腕の先にはもう一つの手が連なっている。

 

アン「リク君っ!!」

 パッとアンの鳶色の瞳に希望の灯が灯る。

 どうやらメイディア、古木目がけて飛び降りたらしい。

 あわやというところでリクの手首をつかむことに成功したのだった

 

メイディア「上がりなさい!

アン「そんなこと言ったって……私……」

メイディア「……上がれっ!!」

 

 険しい命令口調に変わる。

気おされて上を見上げれば、手製の……荷物の中の服やタオル、布という布を全て切り裂いてつなぎ合わせた頼りないロープが垂れ下がっていた。

 とっさの思いつきで二人がぶら下がっている間に急いで作り始めたが間に合わずに長さが足りていない。

そのうちにリクが落ちそうになったので、意を決して飛び降りたというわけだ。

アン「コレ?」

メイディア「そう、早く!」

アン「んっ……」

 

 手を伸ばすが長さが半端で届かない。

 

リク「ジャンプして」

 

 危機はまだ脱していない。

 メイディアの細腕でリクを支え続けるのは限りがあるし、古木も二人分はもちそうにない。

 ギチギチと今にもすっぽぬけてしまいそうな気配をはらんでいた。

 

アン「こんなところでジャンプなんて……」

リク「下を見ちゃダメだ」

メイディア「……できないと言ったら殺します」

アン「……な、なによ……そんなの……」

リク「メイディ、脅しは良くない」

メイディア「何を悠長な!」

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