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レイディ・メイディ 70-12
2009.08.02 |Category …レイディ・メイディ 70話
口元を長い袖で隠して、ぎ、ぎ、ぎと首をかしげる。いつもの動作で。
鎮「これで、よろしゅうございますかな、ニケ殿」
仮面をしていないせいで別人のように見えるが、当然、彼は何一つ変わってなどいないのだ。
ニケ「うん、ま、いいでしょ。じゃあもう一つ、ヒサメには早速だけど仕事があるんだ」
鎮「よもやリクの小汚い手にもちゅーしろとおっしゃられまいな?」
ニケ「いや。主は姫一人で充分さ」
それは両方が危険な場面になったら、迷わず姫を取れという命令である。
紅の瞳を持つ者は確かに重要であるが、それも姫のためにこそ価値がある。
全ては姫の、いや、姫の存在すらもこのローゼリッタのためなのだ。
▽つづきはこちら
ニケ「誓いのキスはもういいから、リクを説き伏せて欲しい。ふて腐れて出て行っちゃったもんでね。子供は扱いに困るよ」
鎮「それはいた仕方のないこと。ニケ殿はすっかり干からびておしまいでござる」
ニケ「……いい加減にしないと、またぶつよ?」
杖を振り上げる。
鎮「ぬっ!? ズルイッ!!」
頭を抱えて距離を取る。
ニケ「彼は君の言うことなら聞くだろう? 多少の無茶でもね」
鎮「……さて? いかがでございましょうな」
ニケ「聞くよ。彼にとって君は特別だ」
鎮「…………」
価値のある特別ではないのだけど。
鎮はそう思ったがムキになって否定してもしょうがないので黙っておいた。
額当ての位置を直す仕草をしてから、脱いでいたことに気づき置き場を失った腕を下ろす。
クロエ「ま、待って、ニケちゃん」
そんなとき、とりあえず動揺を静めたクロエが二人の会話に割って入ってきた。
クロエ「まだ私、ここに残るとは言ってないわ」
ニケ「しかし納得して戻られたのでは?」
またワガママを言い出したとばかりにニケは眉を厳しく引き上げた。
クロエ「条件があると言ったでしょ?」
ニケ「……お聞きしましょうか」
何となく先が読めて、諦めのため息をつく。
クロエ「私、卒業するまで養成所を出ません。城で生活もしません」
ニケ「……それは困ると先程も説明しましたが?」
クロエ「その条件を飲んでくれないなら、私はクローディア姫なんかになりません。クロエ=グラディウスのまま、薔薇の騎士を目指します」
ブラウド「ハッハァ♪ 言うと思った」
からかい口調でブラウドが豪快に笑い飛ばす。
ブラウド「ガーネットを迎えにやったが、上手く丸め込めたとは思えなかったしな」
ガーネット「うるさい。連れて来てやっただけでも感謝しろ、クソオヤジ。アンタが行くよりなんぼかマシだ」
ブラウド「違いない」
素直に認めて肩をすくめる。
クロエ「封印の役目はきっと……いえ、必ず果たします」
姿勢を正して、女王に向き直る。
クロエ「でも時間を下さい。城ではなく、養成所で力をつけます。そこにはニケちゃ……ニケ先生もいて下さるのでしょ? それなら、ここでもむこうでも同じだと思うんです。私、頑張りますから……どうか……」
“どうか、大切な友人たちとの最後の時間を奪わないで下さい。”
“一生のお願いです。”
女王がまだ女王でなかった頃に同じ場面で同じように自分の母親に向けた言葉だった。
王族になるということは、これまで対等だった友人たちが目下になるということだ。
同等であればこその友人関係が、自分の意思とは関係なく崩れ去る。
いくら自分も相手も心は変わらず友人だったとしても、もう公共の場で親しく言葉を交わすことも叶わず、下手をすれば金輪際の別れともなりかねない。
しのぎを削る養成所での友人は、まさに特別。
戦争のないこのローゼリッタで口にするのはおこがましいかもしれないが、小さな戦友と言っても過言ではないのだ。
娘の健気に心を揺さぶられた女王がニケに視線を転じる。
それでニケもまた半分諦めかける。
親子二代そろってワガママだと毒づきながら。
クロエ「困らせてごめんなさい……ワガママだってわかってます。私が思っている以上に責任が重いって事も。でもこれが通らないのであれば私……」
ニケ「姫!」
クロエ「……う。ま、まだ返事はしません、クロエです」
気圧されながらも頑なに拒む頑固な態度を崩さない。
ニケ「では、クロエ=グラディウス」
クロエ「は、はい」
ニケ「いくらでも強制することはできますが、肝心の貴女が投げ出したらそれで終わってしまいますから、私も最大限に譲歩しましょう」
クロエ「あ、ありがとう、ニケちゃ……」
ニケ「ただしっ!」
安易に聞き入れてもらえたと思われては困るとニケは条件を逆につきつけた。
ニケ「その条件を実現したくば、より一層の努力をし、養成所でトップをキープし続けること。少しでも成績を落とすようなことがあらば、すぐさま城に連れ戻しますぞ。今度こそ何を言っても。本来なら、この私が一対一で姫に私の持てる全ての魔法を仕込まなければならないところ。それを養成所で多くの生徒を交えて教えてゆかねばならぬのです。手が届かないところも必然的に出てきてしまいます。そこは姫の積極的な努力で埋めていただかなくては」
クロエ「……は、はい」
ニケ「それから」
クロエ「はい」
ニケ「姫のワガママにより、危険が周囲にも及ぶことをきっちり理解した上で、尚且つ、養成所に戻るのかともう一度確認したく思います」
クロエ「…………」
流されまいと気を張っていたクロエの頑なな意志が揺らいだ。
これまでに何度か狙われ、さらわれ、確かに友人たちを危険に巻き込んでいる。
ブラウド「まぁいいじゃないですか」
父ブラウドの声にうつむき加減になった顔を上げる。
ブラウド「薔薇の騎士団は女王の騎士だ。未来の女王を未来の騎士たちが危険から守る。これほどいい材料の訓練はないんじゃないか? そんな小せーコト、気にすんな」
ニケ「将軍は黙っていて下さい」
ブラウド「こりゃ失礼。つい」
ぴしゃりとニケの咎めが飛んで、うっかり口を挟んでしまったブラウドは頭をかく。
クロエ「……私……」
迷う妹に父に続き、兄も背中を押した。
ガーネット「お前が強くなれば、問題ない」
クロエ「………………うん……」
ニケ「っはぁ。とんだ茶番もあったものだよ」
意思と言わずもがな、決まったであろう答えを知って、がっくりとうなだれるニケ。
クロエ「ごめんね、ニケちゃん……」
ニケ「もうようございます、姫。こうなったら養成所で一切の甘えを許さず、ビッシバッシいきますから、そのおつもりで。それから、ヒサメ!」
鎮「ハッ!」
ニケ「話は聞いての通り。敵は養成所に姫がいるという情報を既に持っている。これからどんな手を使ってくるかわからない。しっかりと両名を守り通せよ」
鎮「御意」
かしこまって頭を下げる。
部屋を退室する間際までクロエはしきりに女王とニケに謝罪して姿を消した。
行きと同じように兄ガーネットがクロエとリク、そしてもう一人、鎮を連れて馬車に乗り込む。
その様子を窓から女王たちが見送った。
女王「……ごめんなさいね、ニケ」
ニケ「いえ。予想はしていたことです。ただ、姫君は貴女様より少々、頑固でわからず屋という事実が発覚してしまいましたがね」
女王「……ふふっ」
ブラウド「おい。ニケ様よ」
ニケ「うん?」
視界から遠ざかっていく馬車を見つめながら、ブラウドは今、大事なことを言いかけていた。
……が。
ブラウド「…………」
ニケ「何?」
ブラウド「………………いや。ニケ殿は一緒に養成所に戻らないのかと思って、な」
ニケ「ああ。ちょっと調べたいこともあってね」
ブラウド「……そうか」
女王「どうかして?」
何事か考えに沈んだ顔つきを案じる女王にブラウドは首を横に振った。
ブラウド「何か……あ、いや。いいんだ。なんでもない」
彼は重大な何かを、ふいに手放してしまっていた。
頭の中でずっと何かに対する警告を放っていたのは確かだったのに、考えようとすると逆に「それ」から離れていくような気がする。
実は鎮の素顔を見た瞬間に何故、大魔道士ニケともあろう者が、この気味の悪いヒサメという異国民を選んだのだと思っていた考えが、目の前で酌み交わされる会話に気を取られた隙にたやすく崩壊していたのである。
何かに邪魔されたように。
こうして過去にミハイルもニケも「何か」を見落としてしまっており、ブラウドもまた、近い将来の災いの種を取りこぼしてしまった。
そのまま、この陰鬱な青年を不気味だと警戒し続けることが出来たなら、後に起こる凄惨な事件を未然に防げたかもしれなかったのに。
青年の中に疼き燻る魔性の正体を見破れたなら。
一刀の元に切り捨てることが出来たなら。
あるいはニケがこの危険な青年の心の闇にもう少し、気を払っていたならば。
あるいは女王がこの純粋な青年を信じなければ。
けれど残念なことに災いの闇は巧みに姿をくらませていた。
当人も知らぬ間に。
●Thanks Comments
うわーんうわーん
なんか可哀想なことだ、クロエはなりたくて姫になる訳じゃないのに
そしてこれからもっと過酷な試練が待っているのかな…
ゼロちゃんなら書き上げることができます
ちゃんとどのキャラクターも愛して、着地させることができると思います(*^∇^*)☆
Re:うわーんうわーん
>ゴッチャにならない?(^_^;)
>
>うん、どのキャラも愛してますけど、自分の技量が……ゲフンモフン。
>読んでくれてる人にいつも申し訳ないわ_| ̄|○ il||li
わっ、わっ☆
またまたヒサメ先生の身に何か起こる予感?(T_T)
クロエ~っ、本当に大丈夫なんだろうか...あっぴには成績トップなんて無理があるとあのクロエの性格からして無理があると?(T_T)←ぉぃ。
んでも、女王と同じ言葉の気持ちが重なったなら、女王も養成所で修行をした人になるの?
リクとヒサメ先生がナイトなら、安心もあるけど、ヒサメ先生は謎だらけの危険ンジャー(^_-)-☆←おいっ。
ますます楽しみになっていくね。レイメイ♪(*^-^*)
アンとリク♪
ジェーンとクレス♪
クロエVSアン♪
ヒサメ先生とメイディ♪
レイオットとレク♪
ん?
あっぴの頭ん中は勝手にこんな感じだよ♪(*^-^*)
うぁい☆
うぁい☆
気長に次の続きを待っておこう♪(*^-^*)
Re:わっ、わっ☆
勉強とかは別にいいんだ。
うん、頑張って続き書きまふ(^_^;)
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