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レイディ・メイディ 69-2
2008.12.09 |Category …レイディ・メイディ 69話
猟犬どもが足元を嗅ぎ回っているその頃、嫌疑をかけられている当の本人は広い部屋の中いっぱいに肥大した“肉”の中に埋もれていた。
ダンラック「少々、太りすぎましたかねぇ?」
そうつぶやく顔は中央に位置しており、自身の贅肉の中に埋もれて生臭い息を吐いた。
備え付けの家具などは肉に埋没してどこにも見当たらない。
ひょっとしたら圧力で壊れてしまっているかもしれなかった。
自身の短い足もすでに床には届いておらず、宙に放り出されたままだ。
どうやれば人間がここまで肥大化できるのか。
いや。人間ではない。彼はとうに人間ではなくなっていた。
ダンラック「さすがにこれはダァイェットしなくっちゃ、シレネ様に嫌われてしまうかもしれません」
陽気な声を口に出して言うとダンラック公爵は、体を揺すり、己自身の肉を波打たせ始めた。
どのくらいそうしていただろうか。
何と、肉は本体から分離して、一つの塊となった。
それはもう一つの命を持って脂肪だけで構成された魔物と変化(へんげ)する。
ダンラック「おっほぅ。カワイイ私のジュニアちゃんのできあがりでしゅね」
肉の魔物は窓を突き破って這い出すと夜の闇にその存在を溶かした。
部屋に残ったのは、短い足をようやく床につけることのできた、やっぱり太り気味の老公爵1人。
それと肉の圧力によって無残に破壊された家具と。
▽つづきはこちら
公爵は部屋の床に落ちていた小さな皮袋を拾い上げた。
彼の出身であるペンジュラ家の家宝……シレネの骨の欠片が入っているのである。
ペンジュラといえば、ローゼリッタに災いなした暗黒の魔女・シレネ=ペンジュラの家柄でもある。
ただし、シレネは養子であり、血は混ざってはいない。
名門ペンジュラ家は遥か400年の昔、シレネを養子に迎え、またその命に幕を下ろさせた騎士の家系である。
シレネの遺体は井戸に投げ捨てられ、封をするように上に巨大な城を設置した。
それが現在のローゼリッタ城である。
ペンジュラの騎士は魔女を倒した際に小指を切り落として密かに持ち帰っていた。
彼が美しかった彼女に不埒な劣情を抱いており、運命の紅い糸は小指に宿る迷信を信じてのことだ。
心は心の臓に宿り、心の臓は左に宿る。
だから心に近い左の小指を持つことで彼は己の情欲を精神的に満たそうとしていたのだった。
そんな軽率な気持ちで掠め取ってきた死体の指は、彼の代を離れるとあのシレネを討ち取った輝かしい栄光の戦利品として、家宝として密かに祭り上げられる。
もちろん、表立って飾るわけにはいかない。
王族はシレネの呪いを必要以上に恐れているのだ。
骨など所有していると知れれば、それだけで嫌疑をかけられ取り潰されてしまう。
実際に骨は持ち主の体から離れても禍々しい魔力を放ち続けていたのだから。
この魔力を利用して、ペンジュラ家はこれまでに様々な陰謀をめぐらせライバルを蹴落としてきたか知れない。
彼らは400百年の間にペンジュラの名を捨て、王族直系の姫に婿入りを果たすことで、とうとう大公爵にまで上り詰めた。
残る地位は、唯一つ。
王座の椅子だけだ。
だが、ダンラック自身は姫の婿になるにはいささか齢をとりすぎた。
もっと年若い頃に現女王にもその母親にも求婚したが、どれも手厳しく断わられてしまっている。
この二人には蛇蝎が如くに嫌われており、むろん、クローディア姫の相手に名乗りを挙げることも初めから拒否されていた。
とすれば、力ずくしかない。
ダンラック「だいたい気に入らなかったんでしゅよね。女ごときが国を統治するだなんて、どこの国でも聞いたことがありません」
化け物というくらいに肥大した脂肪がなくなってスッキリした公爵は、用意させておいた湯船に浸かるために部屋を出た。
あまりに太ったおかげで着ていた衣服は破れるし、部屋からも出られない。
そんな状態にあったにも関わらず、部屋の前に届けられた食事だけは触手を使って食べていたのでこのありさまになってしまっていた。
もちろん、ここ1ヶ月ほど入浴もしていない。
元の体……といってもまだ巨漢には違いないが……を柔らかい湯に浸して鼻から息を吐き出す。
ダンラック「国を治める資格があるのは男です。女などは男を悦ばす道具でしかないというのに、まったく出しゃばった真似をするものではありませんよ」
少年時代からの彼の口癖である。
女性優位のこの国の体制が幼心から許せなかった。
戦好きの彼にいわせれば、薔薇の騎士団という立派な軍隊がありながら、他の国に攻め入らない政策もいけない。
ローゼリッタを軍事国家に育て上げれば、西の大陸を統一することとて可能だと彼は野望を抱く。
緊張状態が続いていたカルハザン帝国と同盟を結んで女王は安堵したようだが、この同盟はカルハザンが侵攻してくるための隠れ蓑かもしれないのだ。
ダンラック『いいえ。そうに違いありません。あの小賢しい小僧のことです。何かしら企んでいるにちがいありましぇん。なのに女王様ときたら、なぁんておバカしゃんなんでしょ』
彼が小賢しいと称するのは、先代王と娼婦の間にできた戯れの子でありながら、ありとあらゆる策を講じて見事、皇帝の座に登り詰めた青年アレスである。
常に微笑を湛えた、しかし無限に広がる凶悪な闇を心に住まわす残虐王。
ただ一度だけ公の場で顔を合わせたきりであったが、すでに人を超越した存在になったダンラックでさえ、目が合ったとき身震いがした。
また、それが許せなかった。
自分の半分しか生きていない青二才ごときに。
ダンラック『あんな男と和平の条約など片腹痛い』
ローゼリッタは平和な時代が続いて腐敗しきってしまったのだ。
どれだけ立派な剣を携えていようと、飾ったまま使わなければ、ただのナマクラに過ぎない。
剣は振り回し、人の血を吸ってこそである。
生来の争い好きのダンラックは、薔薇の騎士団という剣(つるぎ)を思う存分振るいたかった。
世界中を恐怖に陥れる軍事国家に仕立て上げたかったのだ。
大地母神ローゼリッタを祀る神国を。
それにはまず、お人好しで平和ボケした女王とその取巻き、すなわち十二賢者の存在が邪魔である。
伝説の魔女シレネを復活させ、その魔力を我が物にする。
封印の力を秘めた姫と日の王子及び暁姫を手中に収めれば、シレネを思うままに操れるはずだとダンラックは安易に考えていた。
ダンラック「血沸き、肉踊っちゃいますよ? フォッフォッフォッ」
シレネの力を手に入れた己が世界を混乱に陥れる稚拙で危険な夢を描き、公爵は上機嫌に巨体を揺すって笑う。
魔女の欠片は邪悪なる魔力の放出を続け、ペンジュラの血筋を400年にわたって冒し、ダンラックという化け物を生み出したのだ。
やがて湯から上がった公爵の下へ、姫と日の王子・暁姫を宿す者が薔薇の騎士団候補生の試験として、デオスの町へ来る予定だという情報が部下によってもたらされた。
シレネ鎮魂祭が近づいている。
事を起こすには時期的にも劇的で好みだとダンラックは思った。
恐らく、あの忌々しい仮面の教官も護衛としてつくはずだろうが、これまでのようにみすみすしくじりはしない。
低級な魔物や人間ではなく、今度は自分自身から分裂した分身をぶつけるつもりなのだから。
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●Thanks Comments
ダンラック
久々なのです(*^-^*)
相変わらず、この方の考え方は間違ってますが。(苦笑)
ダンラックは薔薇の騎士団の敵だよね?
仮面の教官ってヒサメ先生のことだよね♪(*^-^*)
ダンラックも出てきて、アンとリクの方も気になるし、ヒサメ先生と薔薇騎士レンジャー、メイディアの方も気になるし、カイルの恋も気になるし、すべては鎮魂祭?がどうなるのかがたのしみなのです♪(*^-^*)
できるだけ、
一週間に一回くらいのペースは守って書き進めて行きたいものです(^-^) 職活しながらも。
頑張りマッスル(^_-)-☆
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