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レイディ・メイディ 第69話
2008.11.09 |Category …レイディ・メイディ 69話
第69話:猟犬は集う
薔薇の騎士団本部から派遣されてきたウイングソード小隊長は、ワイズマン公爵と黒き13番目の魔女シレネを祀る教団との関係を暴くためにエグランタイン領に潜伏。
現在はとある町のとある酒場を集合場所に選んで彼らは合流を果たした。
ジョゼット「……これを」
ウイングソード小隊長……ジャックの同期の赤薔薇騎士・ジョゼット=マリッチが麻の袋を卓上に置いて押し渡した。
室内を頼りなく照らすランプの明かりが隅のテーブルに陣取った4人の影を大きく壁に映し出す。
4人はそれぞれ、襟の高い外套を羽織り、会話する口元が他から見えないように気を使っている。
酒場の客の中に敵の手の者がいないとも限らない。
いくら声を小さくして酒場のざわめきに隠そうとも、唇の動きで会話内容を知られては元も子もない。
▽つづきはこちら
ジャック「ありがとう、ジョゼ。助かる」
ゼザ「うは。ソレ、全部、金かよ。スゲェな」
モノ欲しそうな様子のゼザにジョゼットは軽蔑を込めた視線を投げる。
ゼザ「おっと。怖えー、怖えー」
麻の袋に添えた手を放して、小さく降参のポーズをとった。
ゼザとジョゼットは学徒時代、同じ赤薔薇専攻で共に剣を振った仲だ。
ジャック以上に彼を知っているだけに裏切り者に対する彼女の態度は厳しかった。
レティシア「ふん……成果は上がっているんだろうな? これだけの出費をさせて、わかりませんでしたでは済まされないぞ。いや、出費だけじゃない。相手取っているのはあの肉だ。証拠不十分で捕まりでもしてみろ。今度こそお前の首どころか家族も、お前の上司も一蓮托生で仲良く極刑……。わかっているんだろうな、ジャック」
長身を乗り出し、小声で尋ねてきたのは、やはり小隊を預かっている青薔薇のレティシア=ランドルフ。
ジャックの親友であり、好敵手である青年である。
一蓮托生の中に自分たちの名を連ねなかったが、こうして手を貸しているのだ。
危険は常に付きまとっている。
薔薇の騎士団上層部に話を通して推し進めているワイズマン公爵の身辺調査だが、もしも囚われた場合には、ジャックの一存で行ったことであり、騎士団は一切関与していないという筋書きになっていた。
よって騎士団からの弁護は受けられず、それどころか父の仇という個人的な目的のために騎士団の信用に傷を与える行為として罪が上乗せされる可能性も非常に大きい。
そのことを踏まえた上で受け入れる条約を書面にサインしてジャックはこの任に当たっていた。
だが罪は本人だけに収まりはしない。
相手は女王でさえも手出しできない力を持った大公爵である。
直接の上官であるヴァルトも責任を負わされるのは間違いない。
ヴァルトのまた上に当たる上層部の騎士にも失脚は及ぶことだろう。
彼らはそれさえも覚悟してこの青年に調査を託したのである。
そしてまた、一人で奮闘する仲間に手を差し伸べたのが、レティシアとジョゼットというわけだ。
連絡を密に取り合って、必要なものを用意し、情報を預かり本国へ送り、サポート役に徹してくれている。
彼らの命運もジャックの双肩にかかっているのだった。
ジャック「わかっているさ。大丈夫。肉の下に父の友人がいる。渉りもつけられた。ここの人たちは皆、助けを求めているんだ。助かる光明が見えればわけない」
レティシア「どうだかな。民がどちらの力をより脅威と感じるかが問題なんだ」
欠けたジョッキを手に取り、名門騎士の家柄であるレティシアの口には合わない安物の地酒をのどに流し込む。
ゼザ「わかってんじゃねーか、アンタ。その通りだぜ。弱者は強者に寄るしかねーんだからな」
ジョゼット「エラソーに言ってるんじゃないわよ、裏切り者」
ゼザの相槌をぴしゃりとはねつけたのはジョゼットだ。
ジャック「難しいことはわかっているよ。だから、バラ撒きが必要なんだ」
麻の袋を軽く叩き、
ジャック「ナニ。金の魅力も大したもんだよ。欲は恐怖にも打ち勝つ♪」
片目をつぶってみせる。
レティシア「さすがは借金王」
ジャック「まぁね。うっかり金のために手を汚そうとまで思いつめる人が多いのはよくわかるんだ」
ジョゼット「うっかりってまさか貴方……!」
ジャック「してない、してない。借金も全部返したし」
ひらひらと手を振る。
ジョゼット「そ、そう……ならいいんだけど……」
ジャック「あんまり借金王だと嫁の来てがないので、ちょっくら頑張ってみました」
ジョゼット「……ったくもー」
ジャック「あ。ちなみにまだ募集中だから」
自分を指差してニッコリ。
ジョゼット「んなっ!?」
ジャック「ま、冗談はさておき……」
ジョゼット「……冗談……ね。あ、そ」
ジャック「金の力と、他に情報混乱も使わない手はないな」
レティシア「教団を疑心暗鬼に陥れて内側から破壊か……」
ゼザ「…………」
ジャック「ま、それも肉の情報を手に入れてからだけどね」
会話で使われている肉というのは公爵のことである。
ジャック「祭のときにたぶん彼らは何かしら行動を起こすと思うんだ。だから、そのときこそ、一気になだれ込んで一度に逮捕してしまいたい。……ルーディ様に手を打ってもらうよう、伝えて欲しい」
ルーディとは青薔薇きっての軍師である。
ヴァルトと同期の友人でここに集う青年4人にとっては養成所時代に戦略授業を受けた師に当たる。
その手腕は誰もが認めるところで現在もローゼリッタの偏狭の地にて魔物の軍勢を相手に最少の力を持って最大の戦果を上げているところだ。
ジョゼット「わかったわ」
レティシア「後はまだ何かあるか? なければ我々はもう行くが」
ジョゼット「もう?」
立ち上がりかけた長身の相方を見上げる。
レティシア「接触はできるだけ短い方がいい。どこで嗅ぎつけられるか知れないしな。特に……」
不信の色を遠慮なく宿して裏切りのゼザを見下ろした。
視線を受けた当人は卑屈な笑みで口元を歪ませている。
相容れない。……互いにそう思った。
二人の間に流れる険悪な空気を読み取っているのかいないのか、ジャックは「また会おう」と短く答えて酸味の濃い地酒を口に含んだ。
それを合図としてジョゼットも立ち上がった。
背を向けて店から出て行くレティシアの背中を追う。
ジョゼット「……大丈夫かな、ジャック。……あの男……どうにも信用ならないのだけど」
レティシア「お人好しの上に“馬鹿”がつくからな。その上、抜けている」
ジョゼット「そ、そうね」
レティシア「貧乏くじを引かねばいいがな。俺たちにまで被害が及ぶ」
ジョゼット「……ジャック……」
汚い裏路地は幅が狭く、肩を並べて歩くこともできない。
並ぶ朽ちた家の間から、痩せて生気のない浮浪者が眼光にだけ強い力をまとって向けてくる。
戦えば必ず勝つとわかっていても、女性であるジョゼットには気味が悪かった。
月が雲に隠れて普段よりもいっそう暗い夜であることが余計に不気味な演出を手伝ったのかもしれない。
エグランタインはどこに行ってもこうなのだ。
エグランタインはどこに行ってもこうなのだ。
同じローゼリッタ内とは思えない。
レティシア「だがアイツもただの甘チャンじゃないさ。ここを潰す気で嗅ぎまわっている、猟犬だ。そうそうヘマはしないだろう」
彼は幼い頃からずっと、隙あらば公爵の喉元に食いついてやろうと静かに牙を研ぎ澄まして好機を待っていたのだから。
レティシアとて同じ気持ちだ。
乗りかかった船ならば、転覆させる真似だけは絶対にさせない。
全力でサポートする。
ジャックにもしもがあれば、自分が代役を引き継ぐ覚悟でいた。
一刻も早く公爵の悪事を全て暴き出し、白日の下に曝してしかるべき罰を受けてもらわねば。
エグランタインの状況を目の当たりにすれば、誰しもそう決意するだろう。
愛国心に富む真の騎士であるならば。
猟犬は集う。
月のない晩に。
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●Thanks Comments
今度は
ジャック編なのかな♪
あのジャックがなにやら深刻なムード?と....思ったらやっぱし可愛いところもあるキャラなのです。(笑)
これからどんな物語になっていくのか楽しみなのです(*^_^*)
これでまずは終わりだけどね。
ジャックの動きは今後、ちょこちょこ間に挟んでいく形になるかと思います。
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